研究領域 | 細胞競合:細胞社会を支える適者生存システム |
研究課題/領域番号 |
15H01501
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
林 茂生 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, チームリーダー (60183092)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 上皮細胞 / 細胞競合 / 細胞の脱離 / 細胞の挿入 / 細胞極性 |
研究実績の概要 |
細胞競合は等価な細胞からなる集団において特定の細胞集団が他の細胞集団に対して細胞増殖と細胞生存の優位性(fitness)を獲得し、fitnessの劣る細胞が組織から積極的に排除されるとする考え方である.ショウジョウバエの成虫原基や哺乳動物組織で細胞競合の存在が確認され、がん細胞の選択的増殖などの現象を説明するパラダイムとされている.しかし実験上の制約から細胞競合が遺伝的に同質な正常細胞間においても起きるのか、排除される細胞はどうやって選別されるのかについての知見は乏しい.我々は胚のライブ観察を通じて、形態形成運動を行っている発生中の胚の外胚葉は盛んにアピカル面の拡張と収縮を繰り返していること、および一部の細胞はアピカル細胞面を完全に失って上皮面から基底部側に脱離する、事を見出した.この脱離の様相を明らかにするために各種の細胞極性マーカーを用いてライブ観察を行ったところ細胞アピカル面マーカーの消失を伴うことが判明した。しかしミオシン蓄積を伴う細胞の積極的な排除は起こっていなかった。また細胞の脱離だけではなく基底部側から新たな上皮細胞が挿入される現象を見出した。細胞競合の考え方によるとこの現象は細胞のfitnessの喪失、もしくは獲得の結果によると考えられた。これらの条件では細胞死の徴候は見られなかった。また外部からの栄養供給がない胚の細胞では細胞の成長は起こらないのでこれらの表現型は成長中の組織で見られる細胞競合とは異なるものであると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ライブ観察による上皮細胞のダイナミックな形態変化が平面上だけではなく頂端部-基底部方向に向けても盛んに起きていることを見出したことは新規の発見である。また細胞の脱離において頂端部マーカーの消失が伴うことの発見は細胞脱離に細胞極性の変化が伴う可能性を示している。 細胞の脱離だけではなく挿入が起きているという知見は予想外の発見で、興味深い。しかしその生物学的意義を追求する実験を組むことが新たに必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
細胞の脱離における頂端部マーカーの消失の機能的意義を追求するために一部の細胞で頂端部マーカー発現量、活性を変化させるモザイク実験を計画している。細胞の脱離がfitness低下の結果であるとすると、fitnessがさらに低下する条件では細胞脱離の頻度が増すことが予想される.そこでそのような表現型を来す変異体を探索するためにタイムラプス画像データを解析し、細胞脱離の頻度、分布に変化が見られるかを検討する.まず我々が保有しているEGF受容体シグナル、細胞周期の変異体のタイムラプス画像を再解析する.また細胞死関連の変異体、細胞極性遺伝子(Crb, aPKCなど)、細胞競合で知られているJNK経路などの変異体における細胞脱離パターンの変動を検討する.細胞脱離パターンに異常の見られた変異体を元にfitnessを規定する遺伝子経路の解析を行う.
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