公募研究
近年、造血幹細胞(HSC)研究領域を中心に、加齢によるリボソームの変化が注目されつつある。リボソームの機能は過剰にすぎても抑制されてもHSCの可塑性維持に不都合が生じると想定され、厳密な制御が求められることがわかってきた。リボソームを構成する因子は約80種類のリボソームタンパク質と4種類のリボソームRNA(rRNA)であるが、この生合成には多くの因子が必要で、とりわけpre-rRNAのプロセシングは、数百に及ぶトランス因子の作用で段階的に秩序だって行われる。また、リボソームDNA(rDNA)領域は、ヒト細胞では5つの染色体に存在する合計数百のrDNA遺伝子により構成され、数多くの複製開始点を有することが知られている。最近、この領域のDNA複製障害の蓄積が老化造血細胞の特徴のひとつであることが提唱されており、リボソーム生合成のコントロールを起点とした細胞制御システムが加齢現象に深く関わることが注目されつつある。こうしたことを背景とし、本研究では造血細胞の加齢変化をリボソーム変化として捉えることに注力している。まず、リボソーム生合成に関わるトランス因子の変化からアプローチすることとし、千葉大学細胞分子医学研究室(岩間厚志教授)より供与いただいたマウス造血幹細胞mRNAシーケンスデータのうち、リボソーム生合成に関与する625遺伝子の発現変化を統合的に解析した。GSEA解析の結果、この625因子のうちの多くが加齢とともに発現低下する傾向が示されたが、この中でも特に、DNA複製に重要な役割を担うMCMヘリケース複合体構成因子すべての発現低下が顕著であった。この加齢に伴うMCM複合体の減少は、2014年に報告された造血幹細胞の加齢変化の特徴として示されているものとよく合致しており、今後、どのようなメカニズムでMCM複合体の発現抑制が生じるか明らかにしていきたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
研究申請後に所属大学の異動が生じ、新たに研究室を立ち上げることとなった。これに伴う準備にやや時間を要し、実験基盤の再構築に若干の遅れが生じたものの、これは千葉大学・岩間厚志教授のサポートによって補完することができており、総体的には当初の達成目標に近いレベルに達することができたと考えている。次年度は、MCM複合体の減少が生じる要因を分子生物学的に解析することを主な目標と定め、以下に記載の方針で研究を遂行する。
次年度は、rDNA領域のDNA複製障害が起こる理由を、より多面的に捉えることを目標とする。DNA複製には、MCM複合体によるDNA二重鎖の解きほぐしだけではなく、当然、DNAポリメラーゼやPCNAを介した複製行程も同時進行で遂行される必要があるが、加齢した造血幹細胞ではこれらの因子も発現抑制される傾向があるというデータが得られている。このことは、DNA複製を統合的に制御する上位システムが存在し、そのシステムの加齢変化がDNA複製障害を引き起こしていることを強く示唆するものであり、現在のところ幾つかの転写因子やヒストン修飾関連因子が重要な制御因子の候補としてリストアップされている。これらの分子の発現抑制ないし過剰発現による造血細胞の表現型を仔細に観察し、加齢変化のコアとして変動する因子の単離につなげることを目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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