公募研究
学習・記憶に重要な役割を果たす成体海馬では、神経幹細胞からのニューロン新生が恒常的に行なわれている。しかし、このニューロン新生は加齢とともに、減少し、それが認知機能低下の原因の一つと考えられる。本研究では、神経幹細胞エイジングをエピジェネティクス変動・蓄積(エピジェネティックメモリー)と捉え、若齢及び加齢マウス海馬より直接単離した神経幹細胞のエピゲノムを比較検討することにより、その機序解明を目指している。本年度は、まず若齢及び加齢マウスのエピゲノムを比較するために、8週齢及び6か月齢のNestin-GFPマウス(Nestinプロモーター制御下でGFPを発現する遺伝子改変マウス)からFACSによりGFP陽性の生体海馬神経幹細胞を単離した。なお、単離したGFP陽性細胞が神経幹細胞であるのかどうかは、RT-PCRを用いて確認した。現在、これらGFP陽性細胞からRNAを抽出し、RNA-seq解析に必要なライブラリを作製している段階にある。また、これと並行して、既存の報告、データベースなどから、加齢に伴って、成体海馬神経幹細胞において発現が変動する遺伝子を予測した。その結果、核酸結合タンパク質であるHMGB2が静止状態にある成体海馬神経幹細胞では発現が低く、増殖状態なるにつれて発現が上昇することを突き止めた。さらに、加齢に伴ってHMGB2を発現する増殖状態の成体海馬神経幹細胞が減少することから、HMGB2の発現変動が成体ニューロン新生の減少に関わっている可能性が示唆された。今後は、RNA-seq解析により、HMGB2以外の候補因子を探索するとともに、若齢及び老齢マウスエピゲノムの比較をChIP-seq解析や全ゲノムDNAメチル化解析を用いて行うことで、これまでに得られた結果との統合を図る。
3: やや遅れている
老齢マウスの海馬に存在する神経幹細胞の数が少なく、少量サンプルからの解析へ向けた改善を行っているため。
現在までに、若齢及び加齢マウスのエピゲノムを比較するために、8週齢及び6か月齢のNestin-GFPマウスからFACSによりGFP陽性の生体海馬神経幹細胞を単離した。しかし、1匹から採取できるGFP陽性細胞が約100個程度と少なく、微量のサンプルからのライブラリ作製に改善が必要である。そこで、今後は、この技術改善を行うことで、RNA-seq解析に必要なライブラリ作製を可能にしたい。さらに、得られたRNA-seq解析の結果から、若齢マウスと比較して、加齢マウス海馬神経幹細胞において、発現が上昇あるいは減少した遺伝子リストを取得する。また、全ゲノムDNAメチル化解析を用いて、リストにある遺伝子群のプロモーターのDNAメチル化がどのように変動しているのかを調べることにより、加齢に伴うDNAメチル化変動を調べる予定である。これらの解析に加えて、若齢及び老齢マウスより神経幹細胞を単離し、種々のヒストン修飾抗体を用いたChIP-seq解析を行うことも計画しているが、これには微量のサンプルを用いてChIPを行うための条件検討が必要である。そのため、今後はこの条件検討が終了次第、ChIP-seq解析を行い、前述のRNA-seq解析及び全ゲノムDNAメチル化解析の結果と統合することで、加齢に伴うエピゲノム変動の全体像に迫りたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
Stem Cell Reports
巻: 5 ページ: 996-1009
doi: 10.1016/j.stemcr.2015.10.012.
http://www.med.kyushu-u.ac.jp/app/modules/information/database_detail.php?i=819&s=0&k=