研究領域 | ステムセルエイジングから解明する疾患原理 |
研究課題/領域番号 |
15H01518
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堅田 明子 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00615685)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 加齢 / 神経幹細胞 / ニューロン新生 |
研究実績の概要 |
成体においても、脳室下帯と海馬の歯状回には神経幹細胞が存在し、生涯を通じて新しいニューロンが生み出される。これらは、匂いの識別や記憶・学習に関わるが、加齢により、新生ニューロンの数は減少し、老人性痴呆やアルツハイマー病など、神経疾患の発症とも関連する。神経幹細胞の増殖や分裂休止、ニューロン分化を制御する因子としては、これまでに骨形性因子やインスリン様成長因子、レチノイン酸等が報告されているが、我々はこれら生理活性物質(合成酵素)の多くが脳実質と比較して、脈絡叢において高く発現することを見出している。脈絡叢は、脳脊髄液を産生するとともに、これら様々な液性因子を放出することで、神経幹細胞の重要な微小環境を構成することが考えられる。そこで、神経幹細胞の微小環境として脳脊髄液に着目、加齢に伴う脈絡叢の性質変化が神経幹細胞の老化を制御する可能性を解析することで、神経幹細胞の老化現象の新規分子メカニズムの解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの先行研究において、脈絡叢の加齢性変化に注目して研究を行っている報告は非常に少ない。そこでまず、脈絡叢の加齢性変化を捉えるため、若齢(3ヶ月齢)および加齢(11ヶ月齢)マウスの側脳室より脈絡叢を単離、定量PCRにより神経幹細胞の分化制御に関わる因子の発現を解析した。その結果、インスリン様成長因子、血管内皮細胞増殖因子、骨形性因子等の発現は加齢マウスにおいても変化が認められなかった。しかしながら、TNFαやIL1bなど炎症性サイトカインの発現が有意に上昇しており、加齢に伴い脈絡叢では慢性炎症の兆候が認められることが明らかとなった。脈絡叢は、脳脊髄液と血液とを隔てる関門としての機能も重要である。これまでの結果により、加齢マウスの脈絡叢ではタイトジャンクション構成因子の発現低下も認められた。今後は、これについても追及していく。
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今後の研究の推進方策 |
加齢に伴い発現変動する遺伝子を網羅的に解析するため、若齢(3ヶ月齢)および老齢(18ヶ月齢)マウスの側脳室より脈絡叢を単離、ライブラリーを作製しRNA-seqを行う予定である。これにより、脈絡叢の加齢性変化の全容を捉え、神経幹細胞の増殖、ニューロン新生に影響を与える因子を特定する予定である。また、11ヶ月齢マウスの脈絡叢で認められた炎症性サイトカインの発現上昇が、更に加齢が進んだマウス(18ヶ月齢)においても認められるか、確認をする。加えて、加齢に伴う血液・脳脊髄液関門の機能破綻を解析するため、Evans blueの腹腔内注射とその脳内の漏出を解析することで、血管透過性についても解析を行う予定である。
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