研究実績の概要 |
加齢による新生ニューロンの減少は、老人性痴呆やアルツハイマー病など、神経疾患の発症とも関連する。脈絡叢は脳脊髄液を産生するとともに、様々な液性因子を放出することで、神経幹細胞の重要な微小環境を提供する。そこで、15週齢(若齢)と85週齢(加齢)のマウス各3匹の右脳側脳室より脈絡叢を単離、それぞれのマウス個体において発現遺伝子を次世代シーケンサーにより網羅的に解析した。その結果、加齢に伴い脈絡叢で2倍以上発現上昇する遺伝子41個、2倍以上発現減少する遺伝子13個(RPKM>10, P<0.05)を特定、脈絡叢の機能変性に重要な候補遺伝子を同定した。しかし同時に、近交系の実験動物においても、遺伝子発現は加齢に伴い個体差が非常に大きくなることも明らかとなった。そこで現在は、マウスを学習記憶試験に供することで、認知機能を評価したマウスを用いて、脈絡叢発現遺伝子の網羅的解析を繰り返すことで、先に同定した候補遺伝子の再現性確認を行うと同時に、遺伝子発現変化と行動解析を対応付けることで、精度高く認知機能に影響を与え得る脈絡叢発現遺伝子の同定を行っている。現在までに、3ヶ月、6ヶ月、18ヶ月齢マウスの恐怖条件付け試験により、18ヶ月齢マウスで優位に認知機能が低下していること、またこれらマウスの脈絡叢を単離し、次世代シーケンサー解析を行うため、ライブラリー作製まで完了させている。 将来的には、候補遺伝子の機能解析を行うことで、加齢性変化に抵抗性の脈絡叢を有するマウスを遺伝子操作により作出することで、脈絡叢が加齢に伴う神経幹細胞の増殖能や脳機能低下に及ぼす影響を示す。
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