公募研究
シロイヌナズナCGS1遺伝子は高等植物におけるメチオニン生合成のカギ段階を触媒するシスタチオニンγ-シンターゼ (CGS) をコードする。CGS1遺伝子の発現は,メチオニンの代謝産物であるS-アデノシルメチオニン (SAM) に応答した翻訳伸長の一時停止と,これと共役したmRNA分解によってフィードバック制御される。この翻訳停止には,MTO1領域と名付けた十数アミノ酸残基からなる領域がシス配列として機能し,リボソームはMTO1領域直後のSer-94コドンで停止する。リボソームで新たに合成されたペプチドは,大サブユニットを貫く出口トンエンルを通って出てくる。リボソームタンパク質のRPuL4とRPuL17は,出口トンネルの狭窄部位を形成し,新生ペプチドとの相互作用部位として注目されている。シロイヌナズナは,RPuL4,RPuL17とも,2つの遺伝子を持つ。RPuL4,RPuL17のそれぞれについて,一つのオルソログのノックアウト株に,出口トンネルへの突出部(β-loop)の頂点付近のアミノ酸置換,およびステムの両側部分に欠失を導入し,C末端にFLAGタグを付けた変異型遺伝子を導入した。β-loopのステムの両側部分に1アミノ酸残基ずつの欠失変異を導入したトランスジェニック植物では,RPuL4,RPuL17とも,変異型リボソームの形成率に応じて,翻訳停止効率が低下するとともに,出口トンネル内でCGS1新生ペプチドが縮んだコンフォメーションをとることも無くなったと判断された。また,試験管内翻訳系を用いたユビキチン化反応の解析系を立ち上げるため,必要な因子のクローニングおよび発現系の構築を行なうとともに,酵母でno-go mRNA decayを誘導すると報告されているステムーループ構造を持ったmRNAを作成し,シロイヌナズナ試験管内翻訳系においても翻訳停止が起こることを検証した。
2: おおむね順調に進展している
出口トンネルへの突出部に変異を導入したRPuL4およびRPuL17のうち,β-loopの頂点の両側に1アミノ酸残基ずつの欠失変異を導入することで出口トンネルへの突出部を小さくし,狭窄部位を少し広げる異を狙った変異では,期待どおりに,SAMに応答したSer-94コドンでの翻訳停止の効率を弱める効果が検出された。また,出口トンネル内でCGS1新生ペプチドが縮んだコンフォメーションをとる効率も同時に低下していると認められ,これらの結果から,出口トンネルの狭窄部位が,CGS1 mRNAの翻訳停止に重要な役割を担っており,かつ,この翻訳停止とCGS1新生ペプチドが出口トンネル内で縮んだコンフォメーションをとることが,強く連関していることを示した。これまで植物の試験管内翻訳系でno-go mRNA decayが働くかどうかの知見は無かった。H27年度の解析で,シロイヌナズナの試験管内翻訳系において翻訳停止が起こることを示すことができた。また,リボソーム品質管理機構に関わる因子のうちのリステリンは,分子量が大きく,試験管内翻訳系で調製・添加等の操作が困難であったが,反応に関与するリングドメイン領域の実のクローンを用いることで解決した。
出口トンネルの変異は,H27年度の解析に用いた株の他に,RPuL4,RPuL17とも,β-loopの頂点付近のアミノ酸を置換した株と,ステムの両側部分に数アミノ酸残基の欠失を導入した株を作出している。H27年度と同様に,これらの変異株についての解析を進め,変異の程度とその効果の関係を解析する。また,これら変異株における変異型リボソームの形成効率をより正確に見積もるための方法論を検討するとともに,タグを用いた免疫沈降法等により,シロイヌナズナ試験管内翻訳系における変異型リボソームの割合を増加させる方策を検討する。H27年度の解析で,酵母でno-go mRNA decayを誘導すると報告されているステムーループ構造を持ったmRNAは,シロイヌナズナ試験管内翻訳系においても翻訳停止を引き起こすことが示されたが,H28年度は,まず,この翻訳停止がmRNA分解を誘導しているか否かを明らかにするとともに,シロイヌナズナ試験管内翻訳系で,no-go mRNA decayと連関したユビキチン化を再現する実験系の構築を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 21411
doi:10.1038/srep21411
http://www.agr.hokudai.ac.jp/arabi/research-cgs-e.html