mTORシグナル伝達経路はタンパク質合成を中心とした細胞内代謝を調節することによって、形態形成、シナプス形成、細胞移動などの様々な神経細胞の重要な発生段階を制御する。この機構が正常に働くことで、ヒトの脳の発生が正しく行われる。一方で、mTORリン酸化酵素の負の制御因子複合体TSC1/2の機能を阻害する突然変異は脳の発達障害を伴う結節性硬化症を引き起こすなど、mTORシグナル伝達経路はヒトの脳の形成と疾患に直接関与する重要な制御機構であることが知られている。本課題では、mTORシグナル伝達経路がどのような新生鎖タンパク質の合成を制御するかを解析することによって、mTORシグナル伝達経路が神経細胞の発生を制御する機構を理解し、疾患の治療へ寄与することを目指して研究を行った。 これまでに、リボソームプロファイリング法を用いてmTORシグナル伝達経路の活性に依存して合成が制御される新生鎖タンパク質を探索した。神経細胞において特異的にmTORシグナル伝達経路による制御を受けている新生タンパク質を同定するため、神経細胞および胚性幹(ES)細胞においてリボソームプロファイリング法による解析を行い、合成されている新生鎖タンパク質の比較を行った。また、mTOR阻害の有無による比較も行った。これらの比較により、数十のタンパク質が神経特異的にmTORシグナル伝達経路の制御を受けていることを明らかにした。また、幾つかのタンパク質において、神経特異的に合成中のリボソームが遅滞することを見出した。見出されたタンパク質の合成制御とその機能について解析を行い、軸索の形態形成に重要な役割を果たしていることを見出した。
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