公募研究
ビブリオ属細菌においてタンパク質膜透過促進因子SecDF2の発現を司る分泌タンパク質VemPを見出した。VemPは、菌のタンパク質膜透過能を自らの分泌能としてモニターし、膜透過不全時にはリボソームによる自身のタンパク質合成を途中で停止させる。これが下流のsecDF2の発現に必須の役割を持つ。この翻訳停止には、リボソームのExit トンネルの内壁とVemPのC末端高度保存領域間の特異的相互作用が重要である事が示唆されていたが、その分子機構ならびに、具体的な相互作用様式は不明であった。この問題を解明するために本年度は以下の解析を行った。1)上記研究内容ならびに、この発現制御機構のビブリオ属細菌における生理的役割に関する研究内容を取りまとめ、PNAS誌に報告した。2)VemPの翻訳停止に必須な配列を明らかにするために、翻訳停止能をLacZ活性として評価できるレポーター系を作製し、これを用いてC末端の保存領域19アミノ酸残基を対象とした網羅的変異解析を行った。解析はまだ途中段階ではあるが、翻訳停止に必須のアミノ酸残基が複数浮かび上がって来ている。3)翻訳停止VemP-ribosome複合体の構造解析を目指して、VemP合成途上鎖リボソーム複合体を安定に発現精製する実験系を構築し、精製の系の構築を進めた。
2: おおむね順調に進展している
1)新生鎖の翻訳停止を利用した下流遺伝子の発現制御機構の新たな例とその生理的意義を報告できた。2)翻訳停止配列を同定するためのアッセイ系の構築に成功し、このシステムを用いた網羅的な解析を進め7割程度のデータを取得することに成功した。今後も順調な進展が期待できる。この結果は、VemP翻訳停止の分子機構の理解の一助となろう。3)VemP合成途上鎖ーリボソーム複合体の構造解析に向けて、発現・精製系の構築に成功した。しかしながら、ドイツの電子顕微鏡観察の専門家のグループが我々よりも先に構造解析を進め、既に成果を得ているという情報を入手した。このプロジェクトの遂行に関しては軌道修正を行う必要があろう。
昨年度の研究内容を継続すると共に、以下の新たな研究計画を進める。1)アレストモチーフの同定:上記のスクリーニング実験を更に推し進め、VemP C末端保存領域の網羅的変異解析を完成させる。翻訳停止に重要なアミノ酸残基を同定する。2)VemP翻訳停止を不全とするリボソーム変異の分離:上記スクリーニング系を利用して、翻訳停止能が低下したリボソーム側の変異体を分離する。得られた変異部位を立体構造上にマップし、翻訳停止の分子メカニズムを考察する。3)VemPの翻訳停止は、自身の膜透過の際に受ける引っ張り力により解除されると考えられているが、その分子機構は不明である。この点を明らかにするために、VemPのin vitro膜透過実験系を構築し、タンパク質膜透過と共役した翻訳停止の解除の系を再構成する。作成した実験系を用いて、アレスト解除のメカニズムの解明に迫る。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Scientfic reports
巻: 6 ページ: 24147
doi:10.1038/srep24147
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
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eLife
巻: 4 ページ: e08928
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