公募研究
N末端アセチル化は翻訳途上の新生ポリペプチド鎖(新生鎖)を基質としており、生物種を超えて保存された基本的な機構である。ヒトでは全タンパク質の80%以上がN末端アセチル化を受けており、汎用性の高い修飾反応であるが、その生理的意義は未だ多くの謎に包まれている。これまでの研究で、出芽酵母のN末端アセチル化酵素NatAの欠失変異体において、選択的ミトコンドリア分解「マイトファジー」が強く抑制されていることを見出した。本研究の目的は、NatAやその基質タンパク質がいつ・どこで・どのように、ミトコンドリアの機能やマイトファジーに関与しているかを明らかにすることである。本年度においては、NatA以外のN末端アセチル化酵素NatB/C/D/Eは、長期の呼吸増殖下で誘導されるマイトファジーに重要でないこと、オートファジーやタンパク質を積み荷とした選択的オートファジーはNatA欠失細胞でも部分的な影響しか受けないことを明らかにした。これらの結果から、NatAはミトコンドリアの分解に特異的に関与していると考えられる。また、NatAのリボソーム結合部位に変異を導入すると、マイトファジーが障害されることもわかった。以上の知見から、リボソームでの合成過程でNatA依存的にN末端アセチル化される未知の新生鎖が存在し、それらの因子がマイトファジーの誘導に重要な役割を果たしていると想定できる。加えて、NatA欠失細胞は長期の呼吸増殖下で生存率が劇的に低下することから、ミトコンドリアの機能維持にも障害が起こっていると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでの解析により、マイトファジーに必須なタンパク質Atg32のリン酸化・局在、Atg32-Atg8(オートファジーに働くユビキチン様タンパク質)およびAtg32-Atg11(選択的オートファジーの足場タンパク質)の相互作用について、野生株とArd1およびNat1欠失変異株との間に明確な差異は見つからなかった。加えて、NatAを欠失してもタンパク質を積み荷とした選択的オートファジーは大きな影響を受けない。これらのことは、選択的オートファジーに共通して重要なAtg11やコアAtgタンパク質の機能は、NatA欠失細胞でも顕著な影響を受けていないことを意味している。一方、NatA欠失でAtg32の発現誘導が部分的に抑制される。なお、Atg32の2番目のアミノ酸はValであるが、ValをProに置換してもマイトファジーには影響しない。さらにNatA欠失細胞では、ミトコンドリアを積み荷とした構造体がほとんど見られないことから、隔離膜形成より前の段階で何らかの異常が生じていると考えられる。重要なことに、Ard1の活性部位やNat1のArd1結合部位に変異を導入すると、マイトファジーが障害される。また、Nat1欠失でArd1の発現レベルは著しく低下するが(逆も起こる)、この際Ard1を過剰発現しても、マイトファジーは回復しない。上記のマイトファジーの障害に加え、NatA欠失細胞では呼吸条件下での増殖が遅延し、長期培養での生存率も顕著に低下する。これらの表現型は、発酵条件下では見られない。以上の知見を一つの論文にまとめ、掲載することができたことからも、本研究は当初の計画以上に進展していると評価している。
今後は、新規合成過程でNatAの基質となり、ミトコンドリアの機能やマイトファジーに働くタンパク質を同定・解析するため、(1)呼吸増殖下で培養した細胞からミトコンドリアを単離し、蛍光二次元電気泳動法によりNatA欠失変異でバンドの量や移動度が変化しているものを分離、質量分析にて候補因子を同定する。(2)得られた候補因子のN末端に変異を導入してアセチル化を阻害し、ミトコンドリアの機能やマイトファジーに影響があるかどうか調べるとともに、発現・局在・相互作用・分解などを明らかにする。(3)呼吸増殖下におけるNatA活性の変化を調べ、N末端アセチル化がどのように調節されているかを理解してゆく。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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