公募研究
新規合成タンパク質の多くが、翻訳後すぐに分解されるといわれている。さらに、ポリソームの多くは小胞体に結合していることと併せ考えると、小胞体に結合したリボソーム上での新生鎖分解システムを明らかにすることは、真核生物の新生鎖品質管理機構の中心を明らかにすることに繋がる。細胞は、ストレス時に更なる小胞体負荷を避けるシステムとして、本来小胞体に挿入されるべきシグナル配列(SS)を持つ小胞体タンパク質を細胞質内で翻訳し直接分解する(pre-emptive quality control:pQC)。しかし、そのメカニズムは全く不明である。本研究では、小胞体結合リボソームでの新生鎖品質管理機構(pQC)の分子メカニズムならびに生理的意義とその破綻による疾患の病態メカニズムを解明することを目的とする。我々は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質(変異型SOD1)が標的とする分子として、小胞体膜タンパク質Derlin-1を同定した。その機能解析の過程で、Derlinは小胞体タンパク質のうち、分泌タンパク質などの小胞体品質管理に関わらない分子を特異的に細胞質側で翻訳させることを見出した。さらにこの細胞質発現小胞体タンパク質(pQC基質)は、p97やBag6を介してプロテアソームで分解される。また、変異型SOD1はDerlin機能阻害を起こし、pQC基質を蓄積させることも見出し、論文として報告した。
1: 当初の計画以上に進展している
pQCに関しては、プリオンなどの疾患原因異常タンパク質を用いて、小胞体ストレスに曝された細胞で小胞体内腔への挿入が阻害され、細胞質側で蓄積する現象が報告されている。しかし、この現象の生理的意義と分子メカニズムについては、今なお不明な点が多い。とくにpQCに関わる責任因子についての報告は皆無である。そこで本研究では、pQC基質側とpQC装置側からアプローチすることで、メカニズムと生理的意義の解明を目指した。また、小胞体における新生鎖品質管理の生体における意義として、その破綻による病態をALSモデル実験により解析を進めた。具体的には、pQC基質の同定、pQC基質結合分子の同定を実施し一定の結果を得た。
H28年度は、下記項目について検討をすすめる。pQC基質に関する研究:pQC基質認識一次構造の同定:同定されたpQC基質とそれ以外の小胞体タンパク質(シャペロンなど)について、SSとSS以降のアミノ酸一次配を比較し、基質振り分けに関わる特異的配列の特徴を見出す。さらに、シャペロンとpQC基質のキメラおよび特異的配列に変異を入れたタンパク質を解析することで、基質側の小胞体挿入とpQC分解の振り分けのメカニズムを明らかにする。pQC装置に関する研究:pQC基質結合分子およびpQC-E3の機能解析:前年度に同定される結合分子に関して、刺激依存的な細胞内在性結合とともに、KDまたはCRISPR/Cas9システムを用いたKO細胞を作製しpQCにおける役割を明らかにする。E3に関しては、イヌ膵臓ミクロソームを用いたin vitro Ub化アッセイを構築し、pQC基質Ub化への直接の関与を検討する。pQCとALSに関する研究:ALSモデルマウスにおける検討:前年度に明らかになるin vitro ALSモデル初代培養脊髄において蓄積が認められた分子に関して、in vivoでの関与解明を目的としてALSモデル(SOD1G93Aトランスジェニック)マウスでの蓄積を、組織学的、生化学的に検討する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)
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