研究実績の概要 |
真核細胞内で、リボソームから伸長する新生鎖のオルガネラ局在化前の存在状況や存在時間を知ることを目的に、SFVのカプシドプロテアーゼドメイン(CP)を使った新規プローブを開発した。CPドメインはリボソームのトンネル出口から全長が出た段階で、後続のポリペプチド鎖の合成状態に関わらず、CPドメイン直後のペプチド結合を切断する。CP-EGFP融合タンパク質を、ミトコンドリアに輸入させると、50%以上のポリペプチド鎖が細胞質でフォールドし、後方のレポータードメイン(EGFP)を細胞質に残した。一方、動物細胞小胞体のタンパク質輸入に適応すると、合成されたすべてのレポーターは小胞体内腔に達し、細胞質に残るものはなかった。合成に共役した小胞体での膜透過ではCP-ドメインは膜透過以前にはフォールドしないことが判明した。この実験系では、CPが切り離したEGFPドメインは前半の配列によって影響を受けないため、任意の人工配列を導入したモデルタンパク質の振る舞いを容易に調べることができる。これで、任意の疎水性度の配列の透過程度、正荷電配列の透過、その他配列の組み合わせなどの任意配列の、生きている細胞での挙動を、定量的に調べることが可能となった。さらに、この系を出芽酵母系に適応することによって、CP-ドメインのタンパク質合成共役型の透過現象を定量的に評価可能となった。疎水性度が低めのシグナル配列では合成後の膜透過が進行し、疎水性度が高くなるにつれて、合成共役型の透過機構へと透過様式がスイッチすることを示した。さらに興味深いことに、これまで翻訳後の膜透過に関わるとされ、それが教科書にも記されているSEC71, SEC72について、合成共役型膜透過に関わることを見出した。これを駆使して、タンパク質新生鎖の膜透過や膜組み込みに関わる因子群の特性解析を網羅的に実行できる道が開けた。
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