翻訳の一時停止と適切なキューに基づく機動的翻訳制御は、新生鎖のフォルディング等の多様な翻訳活動に必要である。翻訳の一時停止には、mRNAの2次構造依存、rare codon依存等と幾つかの機構があるが、能動的な翻訳再開の機構が明らかになっている例は少ない。さらに翻訳停止mRNAは、No-Go Decay(NGD)という品質管理に曝されており、生物は機動的翻訳停止とNGDを巧妙に使い分けていると考えられる。我々は機動的翻訳停止に対する翻訳再開機構やこれと共役したNGDのON-OFF機構が存在する、もしくは、確率的な翻訳再開タイミングとNGD発動のタイミングが微妙にバランスされていると推測し、そのような機構の解明を目指し、酵母を用いた分子遺伝学的な解析計画を立案し、今年度は以下の課題に取り組んだ。 小胞体ストレス応答に関わるHAC1 mRNA前駆体は細胞質スプライシングを鍵イベントして翻訳を再開するまで、安定な翻訳停止状態にある。Rlg1は細胞質スプライシングの際にエキソン連結に関わるRNA ligaseだが翻訳再開に関わる事が判っている。今回多数のrlg1変異の解析から、Rg1は非翻訳状態のHAC1 mRNA前駆体の安定化にも関わることが示された。HAC1 mRNA前駆体の安定化不全、または、HAC1 mRNA成熟体の翻訳再開不全を示すrlg1変異の多コピーサプレッサーが多数単離されており、翻訳停止時のRNA品質管理回避に関わると思しき因子や翻訳再開に関わる因子群が同定されつつある。他方、codon依存の翻訳停止/遅延を理解するには翻訳時のtRNAの利用可能状況、即ちtRNA量の絶対定量が必要となる。このためtRNAの3'末端を配列特異的に標識する方法を確立した。この手法により、炭素源等の栄養状態や生育状態によって、tRNA種の量比が変化する事が明らかとなった。
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