公募研究
小胞体内腔のレドックス制御機構はいまだ不明な点が多い。特に、小胞体における還元ソースとそのパスウェイは全く同定されていない。我々は、小胞体で初めて還元活性に特化した還元酵素ERdj5を発見し、小胞体関連分解における分解基質のジスルフィド結合を還元し、再び一本のポリペプチド鎖にすることによって小胞体からサイトゾルへ効率よく逆行輸送させていることを我々は示した(R. Ushioda et al. Science 2008、R. Ushioda et al. Mol. Biol. Cell. 2013)。また我々はERdj5全長の結晶構造を解き(M.Hagiwara et al. Mol. Cell 2011)、構造解析を基盤としたより詳細な分子メカニズムの解明に貢献してきた。本研究では、未だにわかっていないERdj5の還元メカニズムに関して新生鎖に着目し、小胞体に挿入された新生鎖の還元力が小胞体のレドックス環境に与える影響、およびERdj5の還元力の供給に着目して研究を行ってきた。我々は小胞体環境中を低カルシウム濃度での環境中でERdj5が機能的に働けるかを検証し、イギリスケンブリッジ大学David Ron博士との共同研究で報告した(Avezov E et al. BMC Biol. 2015)。また、ERdj5と結合する因子からERdj5の還元ドナーを探索し、いくつかの候補タンパク質を得ている。これら候補からERdj5のレドックス状態を変化させる因子を突き止めた。ERdj5の活性に対する影響をin vitro およびin vivoで今後検証したいと考えている。また、候補タンパク質とERdj5の共結晶にも挑戦し、電子のやり取りを構造学的見地から追求したいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
最大の目的であるERdj5の還元ドナーとしていくつかの候補を得ており、また実際に、それら因子がERdj5のレドックス状態が変化することを確認している。これは当初、次年度の計画に含まれていたもので、順調に研究が進展していると考えている。また、次年度の計画には含まれていなかったが、候補因子のノックダウンを哺乳類細胞以外で観察することも視野に入れている。我々はC.elegansの系を用いて、哺乳類細胞で得られた情報を元にノックダウン解析を行い、レドックスネットワークの破綻とフェノタイプ解析を進めている。C.elegansはレドックス因子が哺乳類細胞と比べて少なく、大きなフェノタイプが期待されるのではないかと考えている。今後の研究推進に支障が出ないよう留意しながら研究を進めていきたいと考えている。
当初計画していた通り、以下の3つを中心に研究を推進していくつもりである。(1)無細胞系によるレドックス変化(レドックス測定)、in vitro translationでマイクロソームに挿入する。導入されているroGFPにより、マイクロソームのレドックス変化を追跡する。翻訳される新生鎖の量やシステイン含有を調節し、レドックス環境がどのように変化するか観察したい。(2)同定因子によるERdj5のレドックス状態への影響、同定した因子がERdj5のレドックス状態を変化させるか、同定因子の過剰発現およびsiRNAによるノックダウンで確認する。レドックス状態はPEGマレイミドおよびDNAマレイミドで確認する。もしレドックス状態に影響を与えるならば、シクロヘキシミドなどのタンパク質合成阻害剤で新生鎖の小胞体への挿入を抑制した状態で検証したい。この時点で新生鎖からERdj5までの還元力の受け渡しが立証されれば、インパクトは大きい。(3)小胞体ストレス時における小胞体内腔のレドックス環境の変化、無細胞系を利用し、小胞体ストレス時のレドックス環境を観察したいと考えている。小胞体ストレス時には小胞体内腔で多くのタンパク質がミスフォールド状態にあるといえる。ミスフォールドを引き起こしたタンパク質はジスルフィド結合が正しく架けられていないケースが多く、ジスルフィド結合を形成できないチオール基が小胞体内腔のレドックス状態を攪乱する可能性は高い。我々は新生鎖によるレドックス制御の研究と同時に、分解されるべき運命にあるタンパク質が引き起こす小胞体内腔のレドックス変化に着目し、モニタリングする予定である。小胞体ストレス誘導剤やすでに知られているミスフォールド基質を用いて、小胞体内腔のレドックス状態を観察する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Autophagy
巻: 12(1) ページ: 1-222
10.1080/15548627.2015.1100356.
J Biol Chem.
巻: 290(6) ページ: 3639-3646
10.1074/jbc.M114.592139
BMC Biol.
巻: 10;13(1) ページ: 1-15
10.1186/s12915-014-0112-2
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~nagata/ushioda_profile.html