アルツハイマー病では、その発症原因分子であるアミロイドベータ (Aβ: amyloid beta) のオリゴマーが、シナプス伝達の抑圧やシナプス可塑性の発現抑制を引き起こし、記憶・学習障害に関わると示唆されている。しかしながら、アルツハイマー病発症前から初期にかけて、Aβオリゴマーがどのようにシナプス伝達機能やシナプス可塑性を障害するのかは、未だ明らかでない。そこで本研究では、全反射顕微鏡を用いて、どのような性状のAβオリゴマーがシナプス後膜のどこに作用して、シナプス機能を変性させるのかという一連の過程を明らかにすることを目的とした。
平成28年度では、平成27年度に引き続き記憶・学習の細胞基盤と考えられている海馬の長期増強現象 (LTP: long-term potentiation) というシナプス可塑性に着目し、そのLTP発現に際して神経伝達物質受容体がAβオリゴマーによってどのような動態異常が引き起こされるのかを研究した。具体的には、中枢神経内の興奮性シナプス伝達を主に担うAMPA (alpha-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid) 型グルタミン酸受容体 (AMPA受容体) の動態を複種類観察した。まず、AMPA受容体サブユニットGluA1またはGluA2に蛍光タンパク質SEP (super-ecliptic pHluorin) を標識した。次に、LTP誘導刺激前後におけるGluA-SEPの輝度変化やエキソサイトーシスの頻度変化を解析した。その結果、主にGluA1ホモ4量体で構成されるAMPA受容体のエキソサイトーシスが、Aβオリゴマーによって阻害されることを明らかにした。これにより、LTP発現の抑制メカニズムの一端が明らかとなり、アルツハイマー病の早期病態解明が進んだ。
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