研究実績の概要 |
認知症含む神経変性疾患の多くが晩期発症性であることは、神経細胞の老化が神経変性疾患の発症に密接に関係していることを強く示唆しているが、神経老化と神経変性を関連付ける分子機構についてはほとんどわかっていない。我々は、神経老化によるタンパク質分解機構の変容の分子機構を理解するため、初代培養神経細胞の長期間培養法を開発し、神経細胞の老化をin vitroで解析することを試みている。従来、初代培養神経細胞は1ヶ月程度しか培養できないとされてきたが、培養条件等を検討し、6ヶ月以上の長期間に渡る長期培養法を考案した。その結果、従来の初代培養神経細胞ではみられなかった、神経細胞の老化現象をin vitroで再現することに成功した。長期培養した神経細胞では、培養開始後4ヶ月 (16週齢)を過ぎると老化マーカーの一つであるリポフスチンが蓄積し始めることがわかった。老化に伴う神経細胞の遺伝子発現の変化について、既知の老化関連遺伝子群の遺伝子発現をqPCR法により定量したところ、細胞老化により増減すると言われている遺伝子群(カテプシンD, SirT1, REST/NRSF, RanBP17, Bag3など)の発現変化が報告どおりに確認することができた。また、選択的オートファジーのアダプタータンパク質の発現量には変化がなかったことから、老化神経細胞では選択的オートファジーによる凝集性タンパク質分解は老化神経細胞においても、働いていることが示唆された。これらの結果などから、長期培養神経細胞が老化神経細胞としての特徴を有する実験モデルとなりうると考えられる。今後この実験系を用いて、神経老化による神経変性の分子機構の解明を目指したいと考えている。
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