研究領域 | 脳タンパク質老化と認知症制御 |
研究課題/領域番号 |
15H01562
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
伊藤 慎悟 熊本大学, その他の研究科, 助教 (20466535)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 血液脳関門 / インスリン抵抗性 / 高インスリン血症 |
研究実績の概要 |
本研究は仮説「末梢におけるインスリン代謝異常が脳関門輸送機能を介した脳支援・防御機構を破綻させることで、脳細胞機能障害の引き金となる」 を検討するために、脳関門におけるインスリン受容体シグナルと脳関門輸送機能変化を解明することを目的とした。ヒト脳関門モデルであるヒト脳毛細血管内皮細胞株hCMEC/D3細胞において、インスリンはIRS1を介したAKTおよびERK経路を活性化し、その下流分子で細胞増殖、分化および細胞内代謝に関与があるpSTAT3, PRAS40およびp53を一過性に活性させた。一方、糖尿病時に観察される高インスリン血症モデルとして高インスリン (100 nM)・高グルコース (25 mMを24時間処理したところ、細胞内代謝や老化に関与するp53およびAMPKのリン酸化を増加させた。本処理によって細胞増殖は有意に減少し、細胞内酸化ストレスの増加が観察された。従って、インスリンが脳関門におけるインスリン受容体を介して細胞内シグナル制御および細胞老化に関与する可能性が推察された。脳関門恒常性維持における密着結合とインスリンシグナルの関係を検討したところ、インスリンは細胞間密着結合をインスリン受容体シグナルを介して増強し、高インスリン (100 nM)・高グルコース (25 mM)処理は細胞間密着結合を減弱させた。以上の結果から、ヒト脳関門においてインスリン受容体シグナルが細胞恒常性に関与すること並びにインスリン受容体シグナル低下が密着結合の減弱による脳への細胞間隙を介した非特異的輸送を増加させ、脳恒常性機能破綻に寄与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は平成28年度に予定していた1. ヒト脳関門モデル細胞におけるインスリンによる膜輸送タンパク質発現制御機構の解析、2. インスリン抵抗性ヒト脳関門モデル細胞の作成と検証、3. インスリン抵抗性ヒト脳関門モデル細胞における膜輸送タンパク質発現量変動解析について先行して行った。このうち、1、2および3に関しては計画より遅れてはいるものの、おおむね実験計画通り順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は引き続きヒト血液脳関門におけるインスリン抵抗性によるタンパク質発現解析に基づくシグナル伝達機構および細胞機能変化について解析を進めると共に血液脳関門におけるインスリン輸送分子に関する研究を遂行する。
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