公募研究
微小管結合たんぱく質タウはアルツハイマー病や前頭側頭型認知症など多くの加齢依存性神経変性疾患脳で異常な修飾を受けて蓄積し、神経細胞死を引き起こすと考えられている。しかし、疾患脳で、タウの異常代謝がどのように始まり、毒性を持つタウの蓄積につながるのかは不明である。疾患脳でのタウたんぱく質の変化の中でも、特にSer262/356でのリン酸化は初期におき、タウ蓄積につながることが示唆されている(Ando et al., PLoS Genetics, 2016)。本課題では、Ser262/356でリン酸化されたタウの生成・代謝に関与する遺伝子を網羅的に同定することを目的とする。H27年度には、スクリーニングに適した遺伝学的モデルシステムであるショウジョウバエモデルを用い、タウの遺伝子スクリーンを行った。ショウジョウバエの複眼にヒトのタウを発現させると疾患関連部位でのリン酸化が起き、細胞死を引き起こす。このモデルでさらにRNAiによる遺伝子ノックダウンを行い、Ser262でリン酸化されたタウの量が変化するかをウェスタンブロッティングにより検討した。これまでに37の候補遺伝子についてタウの量とリン酸化に与える影響を調べ、二つの遺伝子についてノックダウンするとリン酸化タウの量が減少することがわかった。来年度は、これらの遺伝子がタウのリン酸化と蓄積を変化させるメカニズムをさらに解析する予定である。この研究から、タウ蓄積と毒性獲得に至る過程について新たな知見が得られると期待される。
2: おおむね順調に進展している
37の候補遺伝子についてショウジョウバエモデルを用いてリン酸化タウと全タウ量についてウエスタンブロットを行い、タウの蓄積に関与する候補遺伝子を二つ同定した。これらの遺伝子をRNAiによりノックダウンすると、Ser262でリン酸化されたタウが減少し、また総タウ量も減少していた。この効果はSer262とSer356をアラニンに置換した変異型タウでは見られないことから、これらの遺伝子のノックダウンによりタウのリン酸化依存的にタウの代謝が変化していることがわかった。
これまでに37の候補遺伝子についてタウの量とリン酸化に与える影響を調べ、二つの遺伝子についてそれらをノックダウンするとリン酸かタウの量が減少することがわかった。本年度はそれらの遺伝子がタウの蓄積と毒性を減少させるメカニズムをショウジョウバエモデルを用いて明らかにする。具体的には、この二つの遺伝子のノックダウンによって、タウのリン酸化酵素の量や活性が変化しているのか、それともリン酸化されたタウの安定性が変わっているのかを、トランスジェニックショウジョウバエに発現させたタンパク質について、ウエスタンブロットその他の生化学的手法を用いて調べる。また、それらの遺伝子の上流、下流として知られている遺伝子についても同様にタウの蓄積と毒性への影響を調べ、タウの代謝と毒性を制御する細胞内経路を明らかにする。さらに、アルツハマー病でタウの上流にあると考えられるベータアミロイドやミトコンドリア異常によりこれらの経路が変化するかについても検討を行う。これらの結果を、国内・国際学会で発表し、論文として発表する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
PLoS Genetics
巻: 12 ページ: e1005917
doi:10.1371/journal. pgen.1005917