公募研究
我々は最近、転写因子NF-Yをマウス大脳の錐体神経細胞で機能欠損させると、ユビキチン、p62が小胞体に蓄積し、神経変性を引き起こすことを報告した(Yamanaka T et al. Nat Commun 2015)。NF-Yが様々な神経細胞で広範に発現していること、またハンチントン病やSBMAなど病変部位が異なるポリグルタミン病で封入体への取り込みが示されていることから(Yamanaka T et al. EMBO J 2008, Katsuno M et al. J Neurosci. 2010)、NF-Yは中枢神経系で普遍的に神経細胞の維持・変性に関わっていることが予想される。これを明らかとするため、ノックアウト・ノックダウン法を用いて、部位・細胞特異的なNF-Yの機能欠損とその影響について検討した。その結果、線条体の中型有棘ニューロンや小脳のプルキンエ細胞では錐体細胞とほぼ同様にユビキチン、p62が蓄積したが、興味深いことに、脊髄や脳幹の運動ニューロンでは、神経脱落を示すもののユビキチン、p62の蓄積は観察されなかった。詳細な解析から、運動ニューロンでは主要な小胞体シャペロンであるGrp78とGrp94の両方の発現が消失していることがわかり、これが特有の神経変性病態に関わっていると示唆された。以上のことから、NF-Yは中枢神経系で普遍的に神経細胞維持に関わっていること、しかしその阻害はおそらく細胞独自の遺伝子発現システムを阻害して、異なる神経変性病態を引き起こすことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
概ね当初の計画通り進行しているが、運動神経特異的細胞変性に関しては現在投稿中であり、その対応にしばらく時間がかかると思われる。
1)ユビキチン化蛋白質の検討。コンディショナルノックアウトマウスとコントロールマウスからユビキチン結合蛋白質由来のユビキチン結合ドメインを結合したビーズ、抗ユビキチン抗体結合ビーズなどを用いてユビキチン化蛋白質を濃縮する。これを電気泳動し、ゲルからの抽出蛋白質を質量分析によって同定する。コンディショナルノックアウト特異的に増加している分子を同定し、これに対する抗体によってその分子がコンディショナルノックアウトマウスの分画において増加していることを確認する。同定された蛋白質の分布をコンディショナルノックアウトマウスにおいて時間経過を追って検討する。2)伝播実験分画法でコントロールと差がある不溶性分画に関して、同量を正常マウスの大脳基底核に注入する。3ヶ月後にユビキチンを指標に異常蛋白質の伝播が認められるかを抗ユビキチン抗体や小胞体のマーカー抗体を用いて検討する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (2件)
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