研究領域 | 脳タンパク質老化と認知症制御 |
研究課題/領域番号 |
15H01571
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
水田 恒太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (60632891)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | アルツハイマー病 / 二光子イメージング / カルシウムセンサー / バーチャルリアリティ |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は、異常活動を起こす神経細胞が増加し、老化タンパク質の蓄積後、神経回路の破綻が起き認知症に至ると考えられている。しかしながら、これまでの海馬神経回路実験では、技術的な難しさから脳スライスや麻酔下の急性による実験で断片的にしか調べられていない。その病態による神経回路が破綻していく過程を詳しく知るためには、同一個体で長期に亘って観察する必要がある。本研究は、仮想認知学習課題を行うADマウスの海馬微小回路において、異常な細胞の出現、異常タンパク質の出現・蓄積から機能回路破綻といった過程を可視化し、その病態の機序を解明する。また、同定された微小神経回路の異常に対して時間的な認知学習や薬物投与による予防・治療の効果を明らかにする。ADモデルマウスの海馬神経回路が破綻していく過程を数ヶ月間長期観察するために、蛍光カルシウムセンサータンパク質G-CaMP7を海馬に発現するADモデルマウスを作成した。そのマウスはアミロイド前駆タンパク質(APP)が過剰発現せずβアミロイドの蓄積を生じる現存する中で最も病態に則したADモデルマウスである。アミロイド斑がすでに生じている4ヶ月齢のADマウスの海馬CA1領域を、仮想現実環境下の探索中に二光子顕微鏡で観察したところ、650個以上の細胞を同時に可視化することに成功した。面白いことに、このADマウスでは、CA1の細胞層の上にある上昇層でアミロイド斑のような蓄積物がG-CaMP7の蛍光において無染色で観察された。それにも関わらず、異常な活動を示す細胞は見つからなかった。これは、APPが過剰発現する従来のADマウスでのアミロイド蓄積前に神経細胞が異常活動を示すという現象とは異なる。したがって、実際のAD患者では、神経活動の異常はアミロイドの蓄積後に生じる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同個体による海馬機能回路破綻を数ヶ月間長期観察するために、蛍光カルシウムセンサータンパク質G-CaMP7を海馬に発現するADマウスを作成することに成功した。また、神経回路破綻過程を観察するという2015年度の計画通り、仮想現実環境下を探索するADマウスの4ヶ月齢で650個以上からなる海馬CA1神経細胞群を、また、その同個体のマウスの7ヶ月齢でも二光子顕微鏡で観察できたことから概ね進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
アミロイド斑ができる4ヶ月齢のADマウスでは、アミロイド斑のような蓄積物がG-CaMP7の蛍光において無染色で観察された。それにも関わらず、異常な活動を示す細胞は見つからなかった。引き続き、同一個体による記憶障害が発症している7ヶ月齢以降の観察と、行動において空間上の特定の位置で反応する場所細胞などを含めたADマウスの神経回路機能に対して解析を進めていき神経回路破綻について詳しく調べていく。それと同時に、G-CaMP7の蛍光で見られた蓄積物が何なのかも免疫染色で明らかにする。病態メカニズムを解明した後、学習や薬物が破綻緩和に有効か(例えばアミロイド斑が発現する前にはどんな薬物が有効か?)をリアルタイムで調べ、ADの治療戦略開発への手がかりを掴むことを目指す。
|