研究実績の概要 |
認知症の発症過程でタウなどのタンパク質が神経細胞内でモノマーからオリゴマーそして繊維状構造へと構造変化することが知られている。しかし、この「タンパク質老化」と呼ばれる構造変化プロセスが細胞内でどのように制御され毒性を獲得するのか完全には理解されていない。細胞内のカルシウム貯蔵庫である小胞体はタンパク質の品質管理・分解除去や小胞体ストレス、ミトコンドリアへのカルシウム供給やオートファジーを制御する重要な細胞内小器官である。我々はこれまで「小胞体カルシウム」が小胞体ストレスとオートファジーを調節し神経変性を起こす新しい病態メカニズムについて研究を行ってきた。小胞体カルシウムチャネルであるIP3受容体1型(IP3R1)のアロステリック変化がオートファジーの制御異常に関わることが示唆され、共著で総説に紹介された(Autophagy, 2016)。更に、この分子メカニズムを解明するためIP3R1の立体構造をX線結晶構造解析により決定した(PNAS, 2017)。IP3存在下・非存在下と欠失変異体の結晶構造を決定し、IP3が結合して生じる構造変化の経路を見出した。さらに、遺伝子操作でこの経路に変異を入れ機能解析を行い、IP3結合部位からチャネル部位までの伝達経路を決定した。その結果、その経路の中でユニークな小葉型構造(リーフレット)がチャネルを開く伝達部位となることが解明された。今回明らかにしたIP3受容体の動作原理は、タンパク質老化と小胞体カルシウムの相互作用の構造基盤を提供し、将来的には認知症の治療や予防に役立つ新しい創薬ターゲットとして期待できる。
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