研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)児・者の69~95%が何らかの感覚の問題を有しており、聴覚や視覚に代表される感覚異常を呈することが多いことが報告されている (Hazen, 2014)。音に対する不安や恐怖や、光に対する過敏さによる視界の不明瞭さにより日常生活適応に影響を及ぼしているものの(Lane et al., 2010, 2011)、その神経科学的な基盤は未だ明らかではなく明確な治療法はない。 本研究では1)ASD児において視覚過敏の合併率と特徴2)視覚提示課題に対する脳の反応における違い3)日常生活場面でよく見られる動画+音声の刺激に対する反応の違いについて検討を行った。 結果:コミュニティーサンプル(TD)58名、当院に通院中の自閉症児61名にアンケートを行った。TD群と比較して光の粒子状や輝度の強調された視覚効果がASD児に多いことがわかったMEGを用いた研究においては輝度を増強した刺激や水玉のようなノイズを重ねた刺激を用いて行った。視覚刺激に対する一次視覚野の反応の潜時は刺激の種類によらず一貫しており、TDとASDで明らかな差はなかった。一方一次視覚野の反応の大きさ(amplitude)はASDでTDよりも大きく、その傾向は刺激の種類によらず、一貫していた。一方動画刺激と聴覚刺激を組み合わせた刺激提示においては、最初の視覚刺激に対して感覚過敏性の強いASD群(ASD with AS)で情動に関わるinsulaの反応が有意に増強していた。感覚統合の中枢である右Banks STSでは視聴覚同時刺激においてASD with AS群の反応が他の2群よりも明らかに増強していた。ASDの感覚刺激に対する反応性は側頭葉>後頭葉で、感覚特異性の指標の結果と一致する。また、感覚統合に関してもASD with ASでは異なる可能性がある。
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