申請者の前回の公募研究により,過去の対人的出来事への解釈が現在のwell-beingに関連するパターンが,定型発達者とASD者で特徴的に異なることが明らかとなった.本研究ではこの成果に基づきASD者の主観的well-being向上を目指して,過去の対人的な出来事を再評価させる介入手法を提案する.本研究では特に、妙心寺派の臨済宗の坐禅を介入として用い、well-beingの向上についての心理学的な効果測定と脳科学的な機能解明を行うことを目指す。 自己意識や注意といった社会性の神経基盤とされるデフォルトモードネットワークの結合は、自閉症当事者で発達が遅延していることが指摘されている。また、デフォルトモードネットワークの結合は、坐禅等の瞑想を行うことで強化されることも明らかとなっている。 本研究では、成人の男性の自閉症当事者3名に対して、妙心寺派の臨済宗の寺の本堂で、僧侶の指導のもと、5日連続(毎朝25分×2回)の坐禅を行っていただき、5日間の前後でMRI、well-being、自伝的物語等の測定を行った。その結果、5日後に、デフォルトモードネットワークの結合(PCC、aMPFC)が、広く強くなっていることが確認できた。また、自伝的物語の語り方に関しても、対人的なネガティブな過去の出来事に対して、坐禅の前後では、新たな視点で、過去の当該出来事を解釈する傾向も明らかとなった。しかしながら、well-beingの程度が向上する効果までは確認できず、5日間ではなく、長期的に坐禅を持続して行う必要性が明らかになったと言える。
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