研究領域 | 構成論的発達科学-胎児からの発達原理の解明に基づく発達障害のシステム的理解- |
研究課題/領域番号 |
15H01584
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
辻 敏夫 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90179995)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 新生児運動 / General Movements / 非接触計測法 / ニューラルネット / マーカーレスモニタリング / 発達障害 |
研究実績の概要 |
新生児に現れる病状・障害を早期に発見することは出生後の予後予測や重症度の緩和,運動機能の獲得訓練などの適用に必要不可欠となるだけでなく,人間の運動機能の発達メカニズムを明らかにするための足掛かりとなり得る.本研究の目的は,新生児に生じる自発運動である General Movements(以下,GMs と略記)を非接触計測し,運動発達と発達障害の関連性を明らかにするとともに,発達障害児もしくはその危険児を早期にスクリーニングする手法を開発することである. 本年度は,これまでに開発したGMs計測法にCubic Higher-order Local Auto-Correlation (CHLAC)という技術を導入して特徴抽出・自動識別を試みた.その結果,これまで手動で与えていた領域依存知識を必要とせずに正常と異常なGMsを自動識別できた(識別率82.6 ± 35.7 [%])[中島ら,日本発達神経科学学会第4回学術集会].また,胎児期~新生児・乳児期~幼児期の発達をカバーする総合的な運動・行動発達定量化システムの開発を目指して以下のシステムを開発した (1)新生児の動画像と脳波データから特徴量をさまざま抽出することでてんかん発作の検出を行うシステムを構築し,90[%]以上の正答率でてんかん発作の検出に成功した[Ogura et al. EMBC’2015]. (2)動画像解析技術を用いたハイハイ動作の定量評価システムを開発し,ハイハイ動作の発達経過の特徴を明らかにした [川嶋ら,第48回日本人間工学会中国・四国支部大会講演論文集]. (3)重心動揺計(バランスWiiボード )と姿勢検出装置(Kinect)を組み合わせた重心動揺評価システムを開発した[槇ら,日本発達神経科学学会第4回学術集会].
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は以下の3項目の達成を当初の目標としていた. (1)GMs評価機能を複数のAbnormal GMsに拡張するとともに,新生児痙攣検出機能と自律神経評価機能を新たに追加する.これにより,GMsと各種生理指標との関係解析が可能になる.(2)幼児の行動評価機能を新たに開発し,コホート研究に基づくGMsの多角的解析を行うことにより,(3)胎児期~新生児・乳児期~幼児期の発達をカバーする総合的な運動・行動発達定量化システムを構築する. (1)についてはCubic Higher-order Local Auto-Correlation (CHLAC)という技術を導入することによりAbnormal GMsに関与する特徴量を手動で抽出することなく,自動識別可能なシステムが開発できた.(2)については,てんかん発作検出システム,ハイハイ動作の定量評価システム,および,重心動揺評価システムを開発してコホート研究のための基盤整備がほぼ完了し,(3)への展開を進めている. 以上のように,すべての項目において進展があっただけでなく,(2)の一部は2年目に推進する予定であったため,当初の計画以上に進展があったと認められる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,医学領域の連携研究者・研究協力者・他班の共同研究者らとともに新生児の GMs の非接触計測,ハイハイ動作計測,重心動揺計測を行い,コホート研究を推進していくことで,GMsとの発達予後の関連性を多角的に解析する.研究代表者は,千葉大学大学院医学研究院環境生命医学,長崎大学医歯薬学総合研究科,岡山大学医歯薬学総合研究科,岡山医療センター,イタリアガスリーニ病院にてGMs評価システムを使用して新生児のGMs計測を行っている.本研究では,100症例を目標として全研究期間に渡って計測したGMsと予後観察結果の関係を解析し,提案システムの有効性を検証する(研究代表者,島,島谷,中塚,中村,Ramenghi,大学院生2名,研究員1名).最終的には,胎児期の自発運動計測,新生児期のGMs評価と自律神経活動評価,幼児期の行動評価の一連からなる運動・行動定量化による“みまもり”システムへの展開を目指す. さらに,GMsデータベースに基づいて新生児のGMsの身体CGモデルを構築し,iPad画面上に問題形式で提示することでGMsの評価訓練が可能なアプリを開発する.本アプリは療法士や看護師などのGMs評価ライセンスの取得に貢献でき,医療機関においてGMsから発達予後を評価するというプロトコルの普及が期待される.
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