公募研究
自閉症スペクトラム(Autistic Spectrum Disorder, ASD)者の発話は韻律が不自然だと言われるが、具体的にどう不自然であるかは未だよく解っていない。近年、言語の韻律は語彙や文法等の要因、対話の談話的要因、情動等の要因が独立に寄与する階層的構造を有する事が明らかになって来た。本研究では、この韻律音声学の枠組みを用いてASD者の発話の韻律を系統的に解析し、不自然さの原因が韻律構造のどこにあるのかを特定することを目的としている。2015年度は、申請者らがこれまでの研究で収録したASD児童と定型発達児童が、絵を見て特定の単語や文型の分を発話した課題音声と、実験者と自然に対話した際の自然発話の韻律を解析した。課題音声では、単語のピッチアクセントや、文の構造、長さ等の文法的要因によって決まる韻律の特性を調べたが、これらの特性ではASD児と定型児では全く差異はなかった。自然発話音声では、音声学の専門家が韻律音声学的に不自然さが感じられると判断した箇所を抽出し、その特性を解析した。個々の不自然な個所をその特性によって分類し、その集計結果をASD児と定型児で比較した結果、ASD児の発話で不自然だと判断された箇所平均15か所ありで、定型児の3.3カ所の5倍近くあることが分かった。ASD児の韻律は、語彙や文法によって規定される側面は全く問題がなかったが、自然な対話においては不自然に聞こえる韻律特性が含まれることが分かった。しかし、どこが不自然なのかについてはASD児によって様々で、個人差が大きいことも分かった。また、自然発話においての不自然さが、成人のASD者でも観察されるかどうかを確認する為、成人のASD者の録音を開始した。
3: やや遅れている
2015年度は、ASD児の発話の韻律特性の解析については研究が進んだが、韻律が不自然になりやすい特性について練習するアプリを開発するという側面についてはあまり進展がなかった。これは、個別のASD者によって不自然になりやすい韻律特性が様々で、特にどの側面についてアプリを開発すればよいかについての判断が難しかったことに起因している。この問題は、2015年3月の班会議において議論を重ねた結果、多くのASD者に観察される特定の側面についてアプリの開発を進める方向で進める方針を決めた。
2016年度は、ASD成人の発話の収録を進めASD児と同様な韻律の不自然さが観察されるかどうかを確認する。また、2015年度の班会議での議論を受けてASD者が自分の声を録音して、特定の韻律特性についてモデルに近づけるように練習できるようなアプリの雛形を開発することを目指す。
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