研究実績の概要 |
本研究では、自閉症の当事者・支援者が感じる身体像に対する違和感を定量化するために、視覚-触覚の時空間統合と身体感覚の個人差や発達過程を調べることを目標としている。本年度は、昨年度に引き続き、複数の心理物理実験、脳機能計測(fMRIによる機能結合評価)、神経内分泌計測(唾液中オキシトシン濃度)に関する研究を行い、自閉傾向に関連した認知神経科学的な特性を明らかにした。自己身体像の錯覚を評価できるラバーバンド錯覚課題では、コミュニケーションや社会スキルの困難の自覚が強いほど、錯覚で生じるラバーバンドへの身体所有感が弱く、さらに錯覚の身体所有感と唾液中オキシトシン濃度との間に正の相関を見出した (Ide & Wada, 2017)。また自閉傾向の高い参加者では、周期的な刺激が錯覚を強化した (Ide & Wada, 2016)。視触覚の相互作用を調べる触覚誘導性視覚マスキング課題では、この現象の生起に二次体性感覚野と視覚野の機能的結合が重要である可能性を発見した(Ide et al., 2016)。さらに視点切り替えにおける身体像の影響と自閉傾向の関係も調査した。自己と他者の左右を判断させる課題では、細部への注意が強いほど、他者の背面像への投影が弱く、想像力の困難感が強いほど、他者の身体部位への注意が強い可能性が示唆された(Ikeda & Wada, ECVP2016)。また、日常生活上の困難と認知特性の関連を探るためにグループインタビューを実施した。以上のように、発達障害のコミュニケーション困難の背景には、情報のまとめ上げの困難とその結果生じる身体性の問題が深く関与しているという当初の仮説を裏付け、自閉症の当事者が感じる身体像に対する違和感の背景にある認知特性を定量的に示すことができた。
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