公募研究
ボノボ・チンパンジーを対象に観察・実験研究をおこなった。サーモグラフィーを用いた顔面温度の計測、アイトラッカーを用いた視線・瞳孔反応の計測、およびKINECTを用いた身体動作の検出など、行動指標と生理指標を組み合わせた実証研究をスタートさせた。KINECTを使えば、対象に同調するキャラクターを操作的に作り出すことができ、同調の度合い(動きの大きさ・タイミング)等も実験的にコントロールすることができる。このようなキャラクターに対する選好性や生理反応を視線・瞳孔反応および顔面温度変化を通して検証し、同調行動と情動、とくに共感や向社会性との関連を明らかにしたい。そのためには対象に合わせたKINECTの調整・プログラムの作成が必要だが、同領域の他研究チームとの共同研究により、この問題の解決に向けた調整を進めている。ボノボ・チンパンジーでの比較結果をより広い視野から議論・考察するため、アウトグループに当たる非霊長類種を対象とした比較研究にも着手した。具体的には、家畜化が社会的認知におよぼす影響を検討するために、ヒトとの関係の深いウマ・イヌを対象に同様の実験を進めている。これまでの研究成果を基に、共感性の進化・メカニズムにかんする意見論文を執筆した。これまでの共感の進化モデルは、ヒトを頂点とした共感性の単純な直線的進化・発達を想定しており、複雑な共感性の発現を説明しきれていない。本論文では、直線的モデルの代わりに、3要素の組み合わせモデルを提唱した。他者との同一化・自他分離による他者理解・向社会性という3つの要素の組み合わせによって、様々な共感関連現象を分類し、適切な文脈に配置するというものである。この成果は心理学評論に掲載され、現在英文論文としても投稿中である。ほか、ボノボの認知・行動にかんする英文学術書をBrill社から出版することができたのもH27年度の大きな成果のひとつである。
2: おおむね順調に進展している
サーモグラフィーを用いた顔面温度の計測、アイトラッカーを用いた視線・瞳孔反応の計測、およびKINECTを用いた身体動作の検出といった新しい実験手法をボノボ・チンパンジー研究に導入した。ノウハウのない中でスタートさせた研究だが、実験手法の有効性が明らかになり、今後の発展が大きく見込まれる。また、ウマ・イヌでの比較実験という新境地の開拓にも着手することができた。こちらも順調に研究を軌道に乗せることに成功し、すでに研究成果を学会発表できるレベルにまで結実させている。世界初の試みであるウマでのアイトラッカーの実験などは現時点ではまだ準備段階だが、今後の進展が大いに期待できる。論文にかんしても、査読付き英文学術雑誌に3編、査読付き和文学術雑誌に1編、英文学術図書としても共同編集で1編・共同分担執筆として1編、和文一般雑誌に3編を出版するなど、順調に成果を発表できている。
研究計画を変更しなければならないような問題点はとくになく、これまでの研究方針を継続させる。ボノボ・チンパンジーでの同調行動の研究は、KINECTの調整・プログラムの作成などがカギになってくるが、現在進行中の他研究チームとの共同研究を進めることで解決したい。平成28年度はポスドク・大学院生等の研究協力者も増え、研究体制がより整う。これまでの研究方針に沿ったデータの蓄積を進めると同時に、ウマでのアイトラッカー研究など、新たな試みにも果敢に挑戦したい。論文発表については、まず、現在投稿中の論文3編の公表に向けて最大限の努力をする。現在収集中のデータについても速やかに公表できるよう、分析・論文執筆を進める。また、H27年度発表の英文書籍とは別にもう1冊のボノボに関する本を現在編集しており(米国Duke大学のBrian Hare博士との共同編集)、Oxford University Press社からH28年度中の発表を目指している。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (2件) 備考 (2件)
Letters on Evolutionary Behavioral Science
巻: in press ページ: in press
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