ボノボ・チンパンジーを対象に観察・実験研究をおこなった。同調と社会適応にかんして、行動指標と生理指標を組み合わせた実験によるデータを収集した。そのデータを分析するとともに、今後の発展に向けて装置・プログラムの開発を進めている。 これまでの成果を基に、霊長類における共感性の進化・メカニズムにかんする論文を執筆した。本論文では、従来の直線的モデルの代わりに、3要素の組み合わせモデルを提唱した。他者との同一化・自他分離による他者理解・向社会性という3つの要素の組み合わせによって、様々な共感関連現象を分類し、適切な文脈に配置するというものである。共感をはじめとするインタラクションにおける認知メカニズム研究のベースとなる考え方を提唱した。この成果は心理学評論およびWIREs Cognitive Science誌に掲載された。 ボノボ・チンパンジーでの研究結果をより広い視野から議論・考察するため、アウトグループに当たる非霊長類種、とくにイヌ・ウマといった伴侶動物も対象に比較研究をおこなった。ヒトとの関係の密な伴侶動物での研究を進めることで、家畜化が社会的認知におよぼす影響を検討することができる。第一弾として、ウマからヒトへの要求行動を実験によって詳細に検討した。その結果、ヒトの知識状態に合わせてウマが要求行動を柔軟に変化させることがわかった。これまで類人猿でしか報告されていない社会的知性がウマでも見られることを明らかにした点で非常にインパクトが大きく、この成果はAnimal Cognition誌に掲載された。主要日刊紙をはじめ国内外のメディアでも取り上げられ、一般の人からの反響も大きい。 昨年のBrill社からの学術書に加え、ボノボの認知・行動にかんする2冊目の英文学術書をOxford University Press社から出版することが決定した。最後の編集作業を現在進めている。
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