研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
15H01626
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
奥村 正樹 東北大学, 多元物質科学研究所, 特別研究員(PD) (50635810)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子認識 / 高速AFM / folding / ジスルフィド結合 / PDI / 溶液散乱 |
研究実績の概要 |
近年哺乳動物細胞の小胞体には20種類以上ものPDIファミリータンパク質が存在し、それぞれが機能を分担することで小胞体中での酸化的フォールディングが効率よく進行すると考えられている。PDIは形や大きさ、ジスルフィド結合の本数が違う基質フォールディング中間体に働きかけることで、様々な基質に天然型ジスルフィド結合を導入することが知られるが、どのように複数のターゲット基質に働きかけているのかは全くわかっていない。そこで、本年度において、PDIのX線小角散乱実験を行った結果、PDIの散乱プロファイルは結晶構造から見積もられた散乱プロファイルと一致せず、溶液構造は結晶構造と異なるドメイン配向をもつ可能性を示した。そこで高速AFMによるPDIの1分子動態解析を行った結果、酸化還元状態および基質の結合に依存したPDIの構造制御機構が明らかとなった。すなわち、酸化型のPDIは還元型に比べドメイン間の揺らぎが大きく、この揺らぎを利用してPDIが基質のフォールディングステージに応じて効率よく基質を捕獲し、基質にジスルフィド結合を導入することが考えられる。興味深いことに、数種のアンフォールド基質存在下において、PDIは基質のフォールディング状態を識別し、アンフォールド状態の基質が存在する時のみ二量体を形成することが本観測により初めて示された。これはPDIが単量体と二量体あるいはそれ以上の会合体の形成と解離を繰り返しており、PDI会合体が形成する空洞の疎水的かつジスルフィド交換反応性に富む環境において、効率的に多種多様な基質のフォールディングが促進されていると考えられる。さらに動的光散乱から、変性基質存在下でPDIは二量体あるいはそれ以上の会合体を形成する一方、folded基質存在下でPDIは単量体であることから、PDIは基質のフォールディング状態をセンスし、会合することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PDIの基質認識に関して、高速AFMを用いた1分子解析より、基質のフォールディング状態に依存したPDIの会合を示しており、その会合の際基質を囲む形で二つのPDI分子が空洞を形成している画像の取得に至った。この空洞は、幾種かの基質存在下でも形成することも確認しており、基質に依存したPDI会合形成・解離の新たな概念を確立しつつある。さらに、バルクの系においても、変性基質存在下でPDIは二量体あるいはそれ以上の会合体を形成する一方、folded基質存在下でPDIは単量体であることから、PDIは基質のフォールディング状態をセンスし、会合することがわかり、この空洞は効率的な基質の酸化的フォールディングを触媒する場と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、基質例拡大のため、変性RNaseAにおいても検証する。さらにPDIが形成する空洞に基質が取り込まれているを検証するため、基質のシステインに金粒子を化学修飾しプローブとして利用することにより、高速AFM観察で基質の観察を容易にする。また、バルクの系において、PDI会合が基質を効率的に触媒しているかどうか検証するため、PDI濃度に応じた基質フォールディングの詳細な速度論解析を行う。これは構造や機能が異なる複数のターゲット分子(基質)を認識するPDIの機能的役割と構造に関する全く新しい概念であり、国際一流紙に投稿する予定である。
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