研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
15H01627
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
奥野 貴士 山形大学, 理学部, 准教授 (80411031)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プロテアソーム / 高速AFM |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、巨大タンパク質分解装置である26Sプロテアソームの基質タンパク質分解過程を高速AFMで直接可視化することにある。H27-8年度においては、主として26Sと基質タンパク質複合体の高速AFM観察による構造/ダイナミクス解析と新たな観察基板の構築を目的とし、研究を実施した。これまで、26S単体の高速AFM観察には成功しており、クライオ電験等で構造解析がなされている、26Sに特徴的なダンベル型の構造体が高速AFMで確認できていた。そこで、基板上に固定した26Sに基質タンパク質を添加し、さらに基質が分解してしまわないように、ATPアナログであるATPγS存在下でAFM観察を行った。その結果、頻度は依然として高くはないが、26Sの一方のRPに基質と考えられる構造体が付加した26Sが確認できるようになった。これらの観察を実施したなかで、基質の非特異的吸着が、複合体観察を難しくすることがわかった。そこで基質タンパク質の特異的吸着を低減する新たな基板構築を試みた。その結果、ポリエチレングリコール(PEG)修飾したガラス基板では、AFM観察用の基質タンパク質の非特異的な吸着が極めて低減できることを確認した。さらに、PEG修飾基板上にアビジンを介して26Sを選択的かつ高効率で基板に固定する条件について全反射蛍光顕微鏡を用いて見出した。今後は、PEG修飾基板上の26Sの構造観察と基質存在下における複合体観察および分解過程観察を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真核生物において、細胞内タンパク質の選択的かつ迅速な分解は、様々な細胞機能調節に関与する非常に重要な反応過程である。26Sプロテアソーム (26S)は分子量約250万の超巨大タンパク質分解装置であり、細胞内におけるタンパク質分解システムにおける中心的役割を担う。我々は、26Sによる基質タンパク質分解過程の動的構造変化を捉えるべく、高速AFMを用いて直接的な可視化に挑戦している。本年度は、主として研究代用者が所属する山形大学にて、全反射蛍光顕微鏡を用いて基質タンパク質の非特異的な吸着を低減した、基板条件の検討を行い、熊本大学小椋教授(連携研究者)が保有する高速AFMを用いて複合体等の観察を実施した。 昨年度までに、26Sと幾つかの種類の基質タンパク質で分解中間体と思われる複合体を高速AFMで捉えられていたが、複合体として確認できる十分な解像度、観察時間を得ることができていなかった。本年度、添加するヌクレオチド、基板修飾条件、基質/プロテアソーム濃度等の条件を検討した。現時点で、複合体の観察頻度を大きく高くする観察条件は見出せないものの、幾つかの複合体の構造観察に成功した。より高解像度の複合体観察とその複合体の構造の揺らぎなどの動きを継続して観察を進める。上記の複合体観察において、基質タンパク質のAFM観察基板への非特異的吸着が原因で、基質濃度を上げることができず、高速AFMによる複合体観察のボトルネックであることが判明した。そこで、新たにガラス基板上にPEG修飾を施した基板を準備し、基質タンパク質の非特異的な吸着を低減することに成功した。さらに、そのPEG基板にアビジンを介して効率的に26Sを固定する条件を全反射蛍光顕微鏡を用いて確立することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで頻度が低いながらも複合体観察に成功している観察条件を軸として、「基板固定条件の改良」、「反応溶液の組成」および「観察用の基質タンパク質の改良」を行い、まずは、複合体観察を継続し、複合体観察頻度の向上を目指す。また、基質の非特異的吸着を低減したPEG修飾基板上における26Sの観察条件を確立し、基質濃度を飛躍的に高めた観察条件での複合体観察を計画している。また、現在26Sは基板上に横向き、つまりRPが基板と接触した状態で固定/観察している。この方向は、26Sの構造観察には適しているが、RPの“動き”を阻害している可能性があり、今後の分解反応追跡に支障が生じることが危惧される。そこで、RP部分の動きと基質結合を阻害しないように、円筒状の26Sを立てた状態で基板に固定し、高速AFM観察を計画する。
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