研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
15H01639
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水野 操 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10464257)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子認識 / 時間分解共鳴ラマン分光法 / 天然変性タンパク質 / 光スイッチング |
研究実績の概要 |
本研究は、天然変性タンパク質の複合体形成における分子認識機構を明らかにするため、時間分解分光法による高速実時間ダイナミクス観測の実現を目指している。複数の光パルスを使用した時間分解分光法は、ごく短寿命で生じる過渡的な分子集団のダイナミクス観測に対して非常に有効であるが、反応開始のトリガーに「光」が必要である。光反応を必要としない変性タンパク質の複合体形成の反応開始制御に「分子光スイッチ」をもちいる。変性タンパク質の標的分子にアゾベンゼン誘導体を導入し分子内架橋構造をもつと、その光異性化により標的分子の立体構造形成がうながされる。これを反応開始のトリガーとして、変性タンパク質がどのように標的分子を認識するのかを観測する。 平成27年度は、時間分解分光を行うための分子光スイッチの作製を行った。光スイッチとして作用するアゾベンゼン誘導体(3,3’-bis(sulfo)-4,4’-bis(chloroacetamide)azobenzene)の合成を行った。アゾベンゼン誘導体がシステイン残基と結合し、分子内架橋構造を形成する。さらに、転写因子(Cyclic AMP response element-binding protein)がもつ変性領域のpKIDドメインの標的であるKIXドメインのα2ヘリックスへシステイン残基を導入した変異体(N267C/K634C)を作製した。 ダイナミクス観測にもちいる時間分解紫外共鳴ラマン分光システムについて、既存のシステムを本研究課題の測定に合わせた条件検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
観測対象のタンパク質は、海外の研究室へ発現ベクターの供与を依頼したため、その交渉に時間を要した。これについては、手続きを踏み、現在は問題なく使用できる状況である。 光スイッチとしてもちいるアゾベンゼン誘導体の合成は、既報の方法であるが、さらなる条件検討が必要であった。この点に関しては、同専攻の有機合成を専門としている研究者と相談の上、研究を遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
変性タンパク質(pKIDドメイン)および標的タンパク質(KIXドメイン)において、光スイッチ機構を持つ標的タンパク質を作製し、光スイッチング機構の評価および複合体形成の時間分解計測を行う。 ・ 光スイッチング機構の評価:光スイッチKIXドメインに対し、時間分解紫外共鳴ラマン計測を行い、二次構造形成の過程を観測する。これにより、光スイッチングの応答時間を調べ、複合体形成の時間分解能を決定する。 ・ 複合体形成の時間分解計測:光スイッチングを利用した時間分解共鳴ラマン測定により、pKIDドメインと光スイッチKIXドメインの複合体形成過程を観測する(観測には、平成28年度に導入するレーザーを使用する)。複合体のドメイン界面には、共鳴ラマンバンドが観測されるチロシン残基がある。このバンドをプローブにして、分子間相互作用変化の過程を活写し、分子認識機構を明らかにする。
pKIDドメインと同様にKIXドメインと複合体形成するMybドメインについても同様の実験を行う。Mybドメイン-KIXドメインの複合体形成では、複合体のドメイン界面および複合体形成後のMybドメインの疎水性コアには、それぞれ共鳴ラマンバンドが観測されるチロシンおよびトリプトファン残基がある。このバンドをプローブにして、分子間相互作用変化の過程を活写する。
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