研究実績の概要 |
光化学系II複合体は総分子量が約700kDaの巨大膜タンパク質複合体で、太陽の光エネルギーを利用して, 水分子を電子とプロトンと分子状酸素へと分解する。この水分解反応の詳細なメカニズムの解明は再生可能でクリーンなエネルギーを作り出す人工光合成研究への応用に繋がると期待されている。 水分解反応機構のモデルでは、基質の水分子は酸素発生中心(OEC)によって電子を一つずつ引き抜かれ、S0~S3の四つの反応中間体を経て、プロトンと酸素分子へと分解される。これまでに反応開始状態に相当するS1状態におけるPSII の結晶構造は放射光で1.9 A分解能で解析され、OECの組成がMn4CaO5クラスターであり、その構造が歪んだ椅子型であることが示されていた。この放射光で決定した構造は放射線損傷の影響を受けている可能性があったため、申請者らはX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAの超高輝度極短X線パルスの特性を利用して無損傷構造解析を行い、天然状態のOECの原子構造を1.95 A分解能で決定した。このOEC無損傷構造から、水分解反応のスキームを幾つかに絞ることに成功したが、反応機構の全貌解明には反応中間体の構造情報が必須である。そこで反応中間体の結晶構造を決定するために、XFELを利用した時分割シリアルフェムト秒構造解析をPSII結晶に適用する研究を進めてきた。今年度は培養スケールを拡大し, 結晶の微小化をおこない。微小結晶の分解能改善にも成功したため、シリアルフェムト秒構造解析が可能なサンプルを得たといえる。この結晶サンプルを用いてXFELにて回折データを収集した。
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