光化学系IIは光駆動の水分子の酸化と酸素分子の発生を担う、分子量70万の巨大な膜タンパク質複合体である。この水分解・酸素発生の反応機構における原子基盤を明らかにすることは、生物の基本現象を明らかにするのみでなく、エネルギー問題や環境問題を解決する可能性があり、人工光合成研究にも大きく貢献することが期待される。 初年度より光化学系IIの水分解の反応の解明をめざし、反応中間体状態を解析可能なX線自由電子レーザーをもちいたシリアルフェムト秒結晶学の開発と光化学系IIのサンプルの条件検討を行ってきた。本年度はサンプルかの回折分解能を大幅に改善する事に成功した。その結果、X線自由電子レーザー施設SACLAを用いて、サイズが100um程度の非凍結の小さな結晶に対し室温にて閃光を二発照射してS3状態へと励起させた回折データを収集して、2.35A分解能で構造解析した。構造解析の結果、S1状態からS3状態への遷移にともない、Mn原子の動きと周辺の配位子の構造変化がみられた。さらにMnクラスターからの水分子を含む水素結合ネットワークが分断されるとともに、酸素発生する触媒部分に新たな水分子に相当する電子密度の挿入が確認された。これにより酸素が発生する直前の構造を明らかにし、この新たな水分子が基質となる反応機構を提唱した。またMnクラスターだけでなく、電子授与体側においても構造変化を確認した。これらの成果は論文発表した。
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