• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2015 年度 実績報告書

In-cell NMRによる細胞内蛋白質のフォールディング安定性と動的平衡の解析

公募研究

研究領域動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する-
研究課題/領域番号 15H01645
研究機関首都大学東京

研究代表者

伊藤 隆  首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (80261147)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワードin-cell NMR / 蛋白質 / フォールディング安定性 / ダイナミクス
研究実績の概要

本研究では,in-cell NMR解析と種々なクラウダー分子を用いたin vitro NMR解析を組み合わせた,細胞内環境が蛋白質分子のフォールディング安定性やコンフォメーション間の動的平衡に及ぼす影響を調べるための新しい手法の開発と応用に関する研究を行っている.
細胞内の高密度で多様な分子の存在は,排除体積効果,特異的相互作用,非特異的相互作用,水の分布・拡散速度の変化,等を通じて細胞内蛋白質の立体構造・ダイナミクスに複合的に影響を与えている.細胞内環境における蛋白質のフォールディング不安定化や,動的平衡に対する影響は,現象として確認されつつあるものの,それを引き起こすメカニズムについては明快な解答が与えられていないのが現状である.本研究ではNMRによる実験的手法を用いることで,細胞内環境が蛋白質の動態に及ぼす影響を理解することを目指している.
平成27年度は,2つの研究テーマについて研究を行った.(1)「細胞質内蛋白質と細胞内高分子構造体との相互作用の同定」については,高分子構造体との相互作用解析が可能な15N-DEST実験を,大腸菌内で発現させた2種の蛋白質(TTHA1718,GB1)について行った.この結果,まだ予備的な結果ではあるが,TTHA1718,GB1とも細胞内存在量の数%が細胞内の高分子複合体と結合しており,その交換速度は50/s程度であるという結果が得られた.(2)「細胞質内蛋白質の動的平衡状態の定量的解析」については,in vitroでnative(N)状態とunfold(U)状態の1:1の平衡にあるショウジョウバエdrkN SH3ドメインを用いて解析を行った.リゾチームやPVPをクラウダーとして添加することで,平衡状態がU状態に偏ることを示した.またHeLa細胞内でもU状態に偏っていることを示唆する結果が得られた.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

現在の研究進捗状況は以下の通りである.
(1)「細胞質内蛋白質と細胞内高分子構造体との相互作用の同定」.高分子構造体との相互作用解析が可能な15N-DEST実験を,大腸菌内の高度好熱菌T.thermophilus HB8 TTHA1718蛋白質および連鎖球菌protein G B1ドメインに適用し,解析を行った.最も単純な2状態モデル(細胞質内で単独で存在している状態と高分子複合体に結合している状態)を仮定し,DEST実験結果と,別途測定した希薄溶液中および大腸菌中の15N-R1,R2緩和パラメータに対してフィッティングを行った結果,TTHA1718,GB1双方について,高分子複合体との結合状態の存在比率が1~3%,kon = ~50/sという値が得られた.測定条件を変えて実験を繰り返すなどして,得られた結果の正当性の検証を試みている.
(2)「細胞質内蛋白質の動的平衡状態の定量的解析」.in vitroでnative状態(N)とunfold状態(U)の1:1の平衡にあるショウジョウバエdrkN SH3ドメインを用い,希薄溶液中,種々のクラウダー分子を混合した状態,大腸菌中, HeLa細胞中でのNMR解析を行った結果,リゾチームやPVP(ポリビニルピロリドン)をクラウダーとして混入した場合と細胞内環境に置いた場合で平衡が大きくU状態に偏っていることを確認した.また,drk蛋白質はSH3-SH2-SH3の3つのドメインから構成されているが,全長におけるdrkN SH3の挙動を解析するために,全長drkの安定同位体試料を調製しNMR解析を進めている.
以上の様に,(1)(2)とも当初の研究計画に沿って様々な結果が出つつある.したがって,研究はおおむね順調に進展していると考えられる.

今後の研究の推進方策

今後の推進方策としては以下の様に計画している.
(1)細胞質内蛋白質と細胞内高分子構造体との相互作用の同定.
大腸菌の系を用いたin-cell NMRによるDEST解析については,均一15N標識試料を用いて充分に解析可能なデータを取得することに成功した.今後は測定条件を変えて実験を繰り返すなどして,データの信頼性を高めるとともに,クラウダーを用いた様々なコントロール実験を行い,比較することで,得られた結果の正当性の検証を試みる.また,次のステップとして,昆虫細胞Sf9やヒトHeLa細胞の系でも15N-DEST解析を試みる.真核細胞の場合には2D NMRを用いた解析は感度的に現実的ではないので,選択的15N標識と1D NMRでの解析を検討する.
(2)細胞質内蛋白質の動的平衡状態の定量的解析.
drkN SH3のHeLa細胞への導入については高感度化に向けてさらなる検討を行う必要がある.これに対しては,cell-penetrating peptideを用いる手法,細胞膜破壊酵素を用いる手法,electroporationを用いる方法を並行して検討し,最適な方法を選択することで解決する予定である.また,クラウダーとしてリゾチームを用いた試験管内の系(U状態に偏っている)で,CPMG-RD実験を行い,molecular crowding下でのN状態およびU状態の比率や,N<->U交換速度を定量的に解析することも試みる.また,全長drkの解析も進め,全長におけるN端SH3ドメインの挙動の解析も行っていく.

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2016 2015 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)

  • [国際共同研究] The University of North Carolina/at Chapel Hill(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      The University of North Carolina/at Chapel Hill
  • [雑誌論文] In-cell NMRとnonlinear sampling - there is no other way2015

    • 著者名/発表者名
      伊藤 隆
    • 雑誌名

      分光研究

      巻: 64 ページ: 413-426

    • 査読あり
  • [学会発表] NMRを用いた生細胞中の蛋白質の立体構造解析2016

    • 著者名/発表者名
      伊藤 隆
    • 学会等名
      シンポジウム「細胞環境における蛋白質の動態解析のためのNMRおよび計算科学的アプローチ」
    • 発表場所
      京都大学 吉田キャンパス
    • 年月日
      2016-03-28
    • 招待講演
  • [学会発表] In situ structural biology by NMR2015

    • 著者名/発表者名
      Yutaka Ito
    • 学会等名
      Pacifichem 2015
    • 発表場所
      Hawaii
    • 年月日
      2015-12-15
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] In situ structural biology by NMR2015

    • 著者名/発表者名
      伊藤 隆
    • 学会等名
      BMB2015
    • 発表場所
      神戸ポートアイランド
    • 年月日
      2015-12-01
    • 招待講演
  • [学会発表] 細胞内クラウディング環境における蛋白質のフォールディングとダイナミクスをNMRで観察する2015

    • 著者名/発表者名
      伊藤 隆
    • 学会等名
      第53回日本生物物理学会年会
    • 発表場所
      金沢大学 角間キャンパス
    • 年月日
      2015-09-14
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2017-01-06   更新日: 2022-01-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi