DNAのメチル化は、細胞の種類の決定、ゲノムインプリンティング、女性の持つX染色体のうち1つが不活性化される現象(X染色体不活性化)などに深く関わっている。がんなどの疾患においては、このDNAメチル化のパターンが異常になっている。故に、DNAのメチル化は、生物の体を正確に形づくるために必須の仕組みである。ゲノム全体の遺伝子のメチル化は、始原生殖細胞において、一度完全に脱メチル化された後、de novo のメチル化酵素(Dnmt3a)が行う。生化学的な実験で、細胞内において時間経過と共に変化するメチル化状態は定性的には観測されている。そこで、詳細なメチル化の順序や反応性を定量的に解析する必要がある。リアルタイムNMR法を応用して、複数分布するCpG 配列にDnmt3aがメチル化を描き込む詳細な機構を明らかにすることを目的としている。 反応したメチル基の検出方法を構築するために、反応性の高い大腸菌のメチル化酵素M.SssIを用いて実験を行った。このメチル化酵素もCpG配列のシトシンをメチル化する。DNAとメチル基供与体であるSAMとメチル化酵素M.SssIを混合してNMR試料管に入れ、37oCで13C-HSQCスペクトルの連続測定を行った。感度上昇のため、メチル基供与体のSAMは、転移されるメチル基を13C標識したSAMを用いること、メチル化シトシンのメチル基の領域だけを選択的に検出するパルスプログラムを用いるなどの工夫を行った。時間変化による各々のメチル化シトシンのシグナル強度の増加を取得でき、センス鎖とアンチセンス鎖のシトシンを区別することができた。その結果、センス鎖とアンチセンス鎖に存在するメチル化シトシンのシグナル強度変化が異なることから、センス鎖とアンチセンス鎖へのメチル化導入は同時ではないということが示唆された。
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