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2015 年度 実績報告書

生細胞深部の分子構造変化ダイナミクスをとらえる1分子FRET計測法の開発

公募研究

研究領域動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する-
研究課題/領域番号 15H01654
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

岡本 憲二  国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 専任研究員 (40402763)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワード1分子計測 (SMD) / 細胞 / 生体分子
研究実績の概要

平成27年度は研究計画に従い、生細胞内1分子 FRET 計測を実現する顕微鏡装置の開発をおこなった。細胞中にコンフォーカル顕微鏡の焦点を絞り、試料分子の濃度を適切に調整すると、細胞質中を拡散する分子が焦点を横切る瞬間にだけ蛍光が発せられる。この蛍光バーストを検出することで、1分子単位の FRET 分布を得ることができる。これまで予備実験には成功していたが、計測条件を最適化することで S/N 比の大幅な向上に成功した。
装置が稼働したため、生細胞実験を前倒ししておこなった。HeLa 細胞中で、緑色蛍光蛋白質 (GFP) と tetramethyl rhodamine (TMR) 色素で蛍光ラベルした Raf 分子の生細胞内1分子 FRET 計測実験をおこなった結果、少なくとも3状態の FRET 状態があること、それらの間の存在比率が上皮成長因子 (EGF) 刺激によって変化すること、等を明らかにした。生細胞内で発現した蛋白質分子の1分子 FRET 計測は、これまでに世界的にも報告が無く、画期的な成果である。
また装置開発として、Alternative Laser EXcitation (ALEX) 装置を開発した。FRET 計測においては、一方の蛍光色素が褪色した分子による偽信号がしばしば問題になる。ALEX では、数ミリ秒しか持続しないバーストの中で、ドナーとアクセプタそれぞれの励起光を交互に切り換える事で、分子の FRET と同時に蛍光ラベルの褪色状態の検出を可能にする。ドナー-アクセプタ間距離の異なる3種類の2重らせんDNA試料を用いて、in vitro 実験による ALEX 計測の検証をおこなった。色素が褪色した分子を分離できること、正しいラベル状態の分子のみから FRET 分布を求めることができることなどを確かめた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成27年度に計画していた装置開発を完了した。
生細胞内1分子 FRET 計測に関しては、主に自家蛍光に由来する背景光を抑える実験条件の最適化おこない、S/N 比の大幅な向上など基本的な性能向上に成功した。申請時の予備実験で得られていた FRET 分布データでは構造状態を示すピークを分離するのが難しかったが、計測の精度向上により、少なくとも3つの分離された状態が確認できる結果を得ることができた。
また ALEX 装置の立ち上げを完了した。2重らせん DNA の参照試料を用いた in vitro 実験により、褪色分子の影響を排除して FRET 分布を得ることに成功し、期待通りに稼動していることが確認できた。
装置が完成したため、計画を前倒しして、平成28年度に予定されていた細胞内 Raf 分子の1分子 FRET 計測実験にも取り組むことができた。Raf に関しては、構造状態が2つあることは想定されていたが、3状態が存在するという新たな知見を得ることができた。また EGF 刺激により構造分布が高 FRET から低 FRET にシフトすることも確認できた。生細胞内で発現した蛋白質分子の1分子 FRET 計測は、これまでに世界的にも報告が無く、画期的な成果である。
平成27年度に計画していたうち、技術的な課題としては、ドナーのフォト-アクティベーションを利用した濃度調整法を実現することができなかった。実際に試料を準備して実験をおこなったところ、FRET が検出できない、予想外のトラブルが生じた。しかし、その後の検証実験によって原因が突き止められつつあり、平成28年度には解決できる見込みである。

今後の研究の推進方策

おおむね順調に進展しているため、このまま研究計画に従って継続していく。
平成27年度に開発に成功した ALEX 計測装置を、生細胞での1分子計測実験にも適用する。褪色分子の影響を除去した精度の高い計測を実現し、生細胞内の分子単位での FRET 分布を調べる。細胞に EGF 刺激を加え、その前後での変化を調べることで、細胞中の分子反応ネットワークの活動に連動して分単位で応答する構造分布ダイナミクスを明らかにする。また、重要なリン酸化サイトについて疑似リン酸化を導入した変異体分子を用い、それぞれのリン酸化サイトにおけるリン酸化の影響を調査する。
計測手法の開発としては、ドナーのフォトアクティベーションを利用した濃度調整法の実現を目指す。平成27年度にも試みたものの FRET 信号を検出できていなかったが、検証実験により原因が突き止められつつある。原因の検証を続け、問題を解決し、手法として確立する。
また、上記の、分単位の構造分布ダイナミクスの他に、ミリ秒オーダーで起きると考えられている、分子構造状態の間の遷移ダイナミクスの計測にも挑戦する。顕微鏡装置では、フォトンカウンティング検出器を用いたタイムスタンプ検出をおこなっており、フォトン1個1個の情報が記録されている。バースト中のフォトン情報を解析することで、ミリ秒オーダーの FRET 変化ダイナミクスの検出できることが期待される。計測法と解析法の両面で開発をおこなっていく。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] State transition analysis of spontaneous branch migration of the Holliday junction by photon-based single-molecule fluorescence resonance energy transfer2016

    • 著者名/発表者名
      Kenji Okamoto, Yasushi Sako
    • 雑誌名

      Biophysical Chemistry

      巻: 209 ページ: 21-27

    • DOI

      10.1016/j.bpc.2015.11.004

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Raf の生細胞内構造分布を明らかにする1分子 FRET 計測2015

    • 著者名/発表者名
      岡本 憲二、日比野 佳代、佐甲 靖志
    • 学会等名
      第53回 日本生物物理学会年会
    • 発表場所
      金沢大学(石川県・金沢市)
    • 年月日
      2015-09-13 – 2015-09-15
  • [学会発表] 上皮成長因子受容体(EGFR)の膜貫通および膜近傍ドメインの構造ダイナミクス解析2015

    • 著者名/発表者名
      前田 亮、佐藤 毅、岡本 憲二、稲葉 岳彦、佐甲 靖志
    • 学会等名
      第53回 日本生物物理学会年会
    • 発表場所
      金沢大学(石川県・金沢市)
    • 年月日
      2015-09-13 – 2015-09-15

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公開日: 2017-01-06  

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