コンフォーカル顕微鏡をベースとし、2基の検出器ですべてのフォトンの検出時刻を記録する TS 検出を実現した1分子FRET計測顕微鏡装置を開発した。予備実験段階ではS/N比が低く、FRETの異なる分子を識別できていなかったが、実験条件を最適化してS/N比を向上し、複数のFRETピークを分離して識別できるまでに測定精度を向上させることに成功した。またアクセプタの直接励起を可能にするレーザーを導入し、2色の励起光を高速(周期 10kHz)で切り換えることでALEX計測を実現する装置開発をおこなった。これにより、バースト毎に、FRETと蛍光ラベルの活性状態との同時検出を可能にした。2重らせんDNAの参照試料を用いたin vitro系実験で、開発した装置の検証をおこなった結果、褪色分子の影響を取り除き、FRET分布の情報だけを取り出せることを明らかにした。 開発した装置を用いて、細胞内Raf分子の1分子FRET計測をおこなった。褪色分子の影響を取り除いて細胞内Raf構造分布を得ることに成功し、その結果、少なくとも3つの構造状態が存在すること、細胞にEGF刺激が加わると5分程度で高FRETから低FRETに分布が移動し、20分程度までにほぼ元の分布に戻ること、などが明らかになった。このようなEGF刺激への過渡的な応答は、従来の知見やバルクでの細胞イメージング実験結果と整合するものである。また、分子毎の分布として捉えたことにより、EGF刺激に応答しない成分が存在することが分かった他、応答して構造変化したRafの応答前後でのFRETや、応答したRafの割合などを定量的に捉えることにも成功した。細胞質中の分子について1分子計測をおこない、特に、細胞内反応ネットワークとの相互作用による変化を検出した点、さらに、応答による変化を定量的に捉えた点に関しては、世界でも初めての画期的な成果である。
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