本研究は、身体性システムの理解に役立てるため、動作時の重心(COG)と足圧中心(COP)の動きから、動的バランス機能の客観的指標を開発し、その妥当性の検証を行ってきた。今年度は脳卒中片麻痺患者29名(平均年齢60±9歳、男性18名、女性11名、右片麻痺17名、左片麻痺12名)を対象とし、ステップ動作時に三次元動作分析装置KinemaTracer(キッセイコムテック社)と床反力計(テック技販)を用いて動作中の計測を行った。指標値として、1秒あたりのCOGとCOPのX座標の差分の変化量(Averaged COP-COG subtraction value:ASV)、COGとCOPそれぞれの速度、COGとCOPの方向一致率を算出した。前年度の予備的な検討と同様、ASVと臨床的なバランススケールであるBerg Balance Scaleの合計値は、歩隔の影響を除いた偏相関係数が0.77と比較的高い相関を示し、重心の動きに対する足圧のコントロールの能力がいわゆるバランス能力を反映している可能性が示唆された。さらに片麻痺者における指標値間の関係性とその重心速度との関連について検討を行ったところ、ASVは重心速度と0.85と高い相関を示す一方、ASVを従属変数、 COP最大速度と方向一致率の二つの変数を説明変数とした重回帰分析の結果、決定係数0.75と比較的高い数値を示し、足圧による重心速度のコントロールが運動出力の大きさとコントロールの巧拙によって説明される可能性が示された。今後さらに運動障害や感覚障害の及ぼす影響、歩行能力との関係等さらにバランスを維持する仕組みの解明に取り組む予定である。
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