研究実績の概要 |
長江下流域において、稲作農耕の発展を背景にカモ科鳥類と人のかかわりがどのように変化したかを明らかにするために以下の調査・研究をおこなった。 1.田螺山遺跡(約7,000-6,500年前)の各層から出土したガン亜科遺体を抽出し、窒素と炭素の安定同位体比分析をおこなった。その結果、C4植物を採取したと考えられる資料は認められなかった一方、窒素の安定同位体比が先史時代のニホンジカより明らかに高い資料が認められた。またガン亜科の幼鳥の可能性が高い資料をわずかながら検出した。これらの資料がガン亜科の幼鳥であれれば、長江下流域では約6,500年前までにガン亜科の家畜化が始まっていたことになると考えられる。 2.良渚遺跡(約5,500-4,200年前)の鐘家港地点および卞家山地点出土資料を調査し、カモ科(ガン亜科、ハクチョウ属、マガモ属、カモ亜科を含む)、ツル科、タカ科の3目3科を確認した。いずれの地点でも出土した鳥類はカモ科が9割以上を占めて主体的であり、他の分類群は稀であった。またカモ科鳥類のうち、鐘家港地点ではガン亜科のみが出土しており、卞家山地点では約半数がカモ亜科であるのと対照的であった。 3.スミソニアン博物館、ハーバード大学・比較動物学博物館、山階鳥類研究所において現生骨格標本を調査し、中国に生息するカモ科鳥類の同定基準作成に努めた。また、中国におけるカモ科鳥類の出土状況や利用形態、出土した骨の形態との比較のために、加曽利貝塚(千葉県千葉市・縄文時代)、養安寺遺跡(千葉県大網白里市・縄文時代)、本郷遺跡(東京都文京区・江戸時代)から出土した鳥類遺体を調査した。 4.これまでの調査結果を整理・考察し、中国の遺跡出土の鳥類をテーマに国際学会で発表した。また、比較のために調査した加曽利貝塚、養安寺遺跡、本郷遺跡についてそれぞれ論文あるいは報告書を執筆した。
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