研究領域 | 稲作と中国文明-総合稲作文明学の新構築- |
研究課題/領域番号 |
16H00743
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
覚張 隆史 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任助教 (70749530)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 長江下流域 / 移民 / ストロンチウム同位体分析 / 歯エナメル質 / 人骨 |
研究実績の概要 |
長江下流域の新石器時代遺跡出土人骨の移民率を推定するために、本年度は田螺山遺跡・河姆渡遺跡・良渚遺跡郡・広富林遺跡を対象にして、遺跡周辺域の地理調査、人骨及び動物骨からの分析試料採取、各種同位体分析を実施した。まず、人骨の分析を実施する前に、遺跡周辺域に生息していたと仮定できる哺乳動物(遺跡を形成した主要な人々が狩猟・飼育していた動物;シカ・イノシシ・イヌ)の分析を実施した。その結果、田螺山遺跡及び広富林遺跡出土動物骨の間でストロンチウム同位体比に有意な差が見られた。広富林遺跡出土動物のストロンチウム同位体比は、田螺山遺跡のそれよりも低い値であった。これは、レス由来のストロンチウム寄与率が田螺山遺跡よりも広富林遺跡周辺域が低かったか、もしくは海水由来のストロンチウム寄与率が田螺山遺跡よりも広富林遺跡周辺域が高かったという二通りの可能性を示唆している。いずれにせよ、両遺跡のストロンチウム同位体比の多様性は小数点第3桁目に収まり、ヒトの移動を検証する上では検出感度が比較的に良いフィールドと言える。続いて、両遺跡出土人骨の歯エナメル質のストロンチウム同位体比を測定した結果、田螺山遺跡では哺乳動物のストロンチウム同位体比の範囲に全て収まったが、広富林遺跡ではその範囲から大きく逸脱した個体が多数検出された。その検出例は、現状で一割以上にも及ぶものであった。移入個体の形質人類学的な情報を鳥取大学医学部の岡崎健治氏から提供してもらい比較した結果、性別不明個体はいるものの、ほぼすべての個体が女性人骨であることが判明した。これらの遺跡出土人骨は、供はんする土器型式から良渚文化期以前の個体が含まれる可能性が出てきており、外部地域から成人女性が移入するといった父系的な婚姻形態を想起させるような状況証拠が得られてきた。今後、残り300個体ある人骨の分析を進め、統計学的な評価を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時における分析対象遺跡の試料のうち、今年度中に広富林遺跡出土人骨の残り300個体を除いてすべての人骨から試料採取が完了できた。また、分析可能性についても本年度上半期で完了しており、申請時の計画通りのタイムスケジュールで進行していると言える。さらに、広富林遺跡の人骨の分析から、新規性の高い人類学的発見が得られる見込みが高いことが分かりつつあることから、来年度の上半期にデータを全てアウトプットし、下半期に論文化に向けた準備が可能になったと考えている。よって、本計画は順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度研究課題の今後の推進方策は、申請時の実施計画に準拠して研究を遂行していくことである。 研究計画の変更点はないが、研究を遂行する上での気をつけなければならない点として、広富林遺跡出土人骨の残りの個体の分析、良渚遺跡及び河姆渡遺跡出土動物骨の分析を上半期中に確実に遂行することである。 無理の無い分析計画を作成し、研究遂行していくことを心がけていく必要がある。
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