研究領域 | 稲作と中国文明-総合稲作文明学の新構築- |
研究課題/領域番号 |
16H00746
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
神谷 嘉美 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員(客員研究員) (90445841)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 漆 / 古代中国 / 漆樹 / 科学分析 / 製作技法 / 出土遺物 / 考古学 |
研究実績の概要 |
漆は歴史的に古くから利用されている塗料であるが、その耐薬品性の高さから分析手法が限られており、古代中国においてどの種類の漆樹液が利用されていたのか科学的な調査は行われてこなかった。一方、漆器づくりには「原料となる樹液を採取・保管し、樹液を塗料へと加工し、顔料を製造し、塗布するための胎を作る」といった“多種多様な材料の組み合わせとモノづくり技術”を必要とする。単一の材料で生み出すことができないからこそ、ひとつの漆器には天然資源を活用する当時の技術レベルが反映されている。ゆえに漆器づくりの材料と技術を詳細に検証することで、古代中国での物質文化の創造レベルを議論すべく、本研究では複数の分析手法を組み合わせて漆遺物を調査する。得られた情報を工芸技術史的な観点から解釈することで、古代中国の天然資源活用に関する「ものづくり技術」の水準を探ろうと試みるものである。 研究初年度の平成28年度には2回にわたって中国での現地調査を行い、古代中国の出土漆遺物に関する情報の入手と、現地の関係者らとの学術交流に努めた。中でも、漆遺物と思われる出土品が数点すでに確認されていた田螺山遺跡と良渚遺跡を中心に資料の確認作業を進め、いくつかの資料については熟覧調査を行い、浙江省文物考古研究所の研究者らと漆分析に関して協議を重ねた。一部の資料については、クロスセクションによる塗装仕様の確認・走査型電子顕微鏡観察・元素分析による顔料推定・Py-GC/MSといった複数の科学分析調査を実施した結果、これまでの研究では認識されていなかった重要な新知見を得ることができた。こうした調査で得られた漆樹液の利用に関する成果については、浙江省文物考古研究所の研究者らと今後逐次成果を公表していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、多数の木製出土品の中に漆遺物の存在が指摘されていた田螺山遺跡での熟覧調査だけでなく、これまであまり知られていなかった良渚遺跡より出土した漆遺物の内容について現地の状況等を確認することができ、さらに進行形で漆遺物の発見が続いていることを把握した。このような中国での調査によって、当初の計画で懸案仮題であったまとまった漆遺物の存在を確認することができ、今後の研究進展に対する見通しを得た。 また試料提供を受けた一部の漆遺物については、クロスセクションによる塗装仕様の確認・走査型電子顕微鏡観察・元素分析による顔料推定・Py-GC/MSといった複数の科学分析を進めており、用いられた材料と製作技法についての検討を行っている。その結果、これまでの研究では認識されていなかった重要な新知見を得ることができた。それらの研究成果は現地協力者との連絡を緊密に取りながら、平成29年度の早い段階で論文化するよう調整中である。以上のような理由により、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き中国内での漆遺物の実見調査を継続するとともに、漆樹の生育分布について植物学・古環境の面からの情報収集や、見通しの確認などを行う方向で現地での調査を進めたい。 また本研究における取り組みについて現地研究者らと学際交流を行ったことで、専門家がおらずあまり注目されていなかった漆遺物への関心を高め、その結果、科学分析に必要なサンプルの提供が増えた。今後も積極的に関係者らとの交流を重ね、現地での協力を得ながら中国各地の調査で散見されている漆遺物についても、より具体的な情報を得るべく調査などを実施したい。
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