本年は2018年1月15日~23日の期間訪中し、研究結果の報告と新たな課題解決に向けての打ち合わせを行った。田螺山遺址現場館と良渚工作站では、新しく発掘された鐘家港遺跡の木胎漆器に加え、昨年度の現地調査時では見つけられなかった木胎漆器を数点確認し、分析用にサンプリングを行うことができた。 昨年に引き続きクロスセクション観察を行った結果、良渚文化期の卞家山遺跡・鐘家港遺跡からの木胎漆器の多くは朱色であるが、ベンガラと水銀朱の使い分けがなされているとわかった。卞家山遺跡より出土した遺物の一部では、ベンガラ塗装を3回行った後に水銀朱の塗装を行っていた。また本研究では対象に含めていなかったが、彩色土器に水銀朱が付着していることを確認した。 本研究の最も大きな発見は、河姆渡文化期の田螺山遺跡、良渚文化期の卞家山遺跡・鐘家港遺跡からの木胎漆器からは現在の中国の漆器製作で用いられているToxicodendron vernicifluumの主成分由来の熱分解生成物は検出されず、Toxicodendron succedaneaのの主成分に由来する熱分解生成物が検出されたことといえる。これまでの中国漆器の科学的な研究は少ない一方で、至極当然の事実として、ウルシオールを主成分とする漆樹が利用されていると考えられてきた。しかしPy-GC/MSの結果、ラッコール由来の熱分解生成物を確認する世界で初めての成果となった。これは漆樹の起源をめぐる日本考古学の論争にも大きな課題を投げかけるものであり、より多くの調査事例を増やしていく必要がある。加えて今後、調査対象を広げての継続的な研究実施とあわせ、古環境や植物に関する研究者らと連携することが重要になる。
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