近年、多くのファージや、分泌系では、効率的な膜輸送反応に針状蛋白質を利用していることが明らかとなり、その応用利用が注目されている。そこで、本研究では、バクテリオファージT4の部品蛋白質から合成した蛋白質針の自発的な細胞膜透過能に着目し、そのメカニズムの解明を目指した。具体的には、H20-H22年度基盤研究(B)「ウイルス部品蛋白質からなるナノチューブ構造体の分子設計と機能化」と、H26-H27年度新学術領域研究「動的秩序」「人工分子針の細胞膜貫通制御」により見出した蛋白質針の細胞膜透過現象をもとに、以下に示す三種類の実験を組み合わせた領域内外の融合研究により、蛋白質針の膜透過機能の解明を達成した。(1)高速AFM観察:研究の要となる高速AFM測定では、マイカ基板上へ吸着した人工蛋白質針を脂質二分子膜の端へ相互作用させることによって、膜貫通プロセスを二次元的な運動として1分子観察した。(2) MD計算:高速AFM解析によって得られた蛋白質針と脂質膜との接触角、接触保持時間、挿入速度をパラメーター化し、それらの構造情報をもとに、MD計算を進めた。(3)電気生理学測定:液滴接触法による脂質二分子膜作成から、迅速測定系を構築し、脂質膜透過と膜間電位差の関係を明らかとした。さらに、針先構造や表面電荷の異なる蛋白質針の合成を行い、上記の実験による膜透過能の比較から、膜透過メカニズムの全容を解明した。
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