研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
16H00756
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
内藤 晶 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 名誉教授 (80172245)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カルシトニン / グルカゴン / アミロイド線維 / アミロイド線維中間体 / 固体NMR / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
カルシトニンはカルシウム代謝に重要な役割を果たしているペプチドホルモンであり、骨粗鬆症の治療薬としても使用されているが、高濃度中性水溶液中で容易に沈殿する性質が知られている。一方、グルカゴンは膵臓で分泌されるペプチドホルモンであり、血糖値を上昇させる活性を持っている。グルカゴンも水溶液中では容易にアミロイド線維を形成する。本研究では、より生体系に近い脂質膜の存在下でこれらのペプチドホルモンのアミロイド線維形成機構を解明する研究を行う。このため、脂質膜環境下で固体NMRおよびTEMの測定を行い、さらに分子動力学計算の手法を用いて、脂質膜とカルシトニンおよびグルカゴンの相互作用解析、線維形成反応機構の解析、線維の立体構造決定を行う。これらの結果を精密に解析し、生理環境下でのこれらのペプチドホルモンのアミロイド線維形成の分子機構を明らかにすることを研究の目的としている。 1)本年度はクルクミンによるヒトカルシトニンの線維形成阻害機構の解明を行った。クルクミンを添加したカルシトニン水溶液で線維形成の反応速度を観測して、2段階自己触媒反応機構を用いて反応速度定数を求めたところ、クルクミンは線維核形成の段階を阻害していることが判明した。さらに分子動力学計算から、カルシトニンの芳香族アミノ酸残基とクルクミンが相互作用を持つことが明らかになってきた。 2)細胞膜中の環境に近い状態のグルカゴンのアミロイド線維形成過程を検証するため、脂質膜の存在下でアミロイド線維形成過程を測定した。まず31P-NMRの測定から線維形成の過程で、脂質膜と相互作用親和性の異なる3種類の凝集体の存在が明らかになってきた。13C-NMR測定により、これらのオリゴマーは2次構造に違いのあることが明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではクルクミンによるヒトカルシトニンの線維形成形成疎外機構の解明を行った。固体NMRを用いて線維形成の反応速度を観測したところ、線維核形成速度が大幅に遅くなることが判明した。しかし、繊維伸長速度は短くなってはいなかった。したがって、クルクミンは線維核形成反応を阻害していることが明らかになった。さらに、電子顕微鏡でHEPES中での線維形成過程を観測したところ、線維形成の過程で球状の中間体の観測に成功した。さらに、球状中間体から線維が成長しているスナップショット像を得ることができた。これまで、中間体は観測されているが、中間体から線維が直接成長している像はこの研究が初めて得られた。さらに、ヒトカルシトニンのHEPES溶液中でのMDシミュレーションを行ったところ、ヒトカルシトニンのF16,F19芳香族アミノ酸残基とクルクミンが相互作用を形成していることが明らかになった。 細胞膜中の環境に近い中性で脂質膜存在下でのグルカゴンのアミロイド線維形成過程を固体NMRの観測を行った。固体31P-NRを測定したところ、グルカゴンはすくなくとも3種類のオリゴマーを形成して最後にアミロイド線維が形成することが分かった。さらに、各オリゴマーでは膜との親和性が異なっていることが明らかになった。さらに、固体13C-NMRでグルカゴンの二次構造変化を観測したところ、各オリゴマーにおいては異なる二次構造を形成していることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
クルクミンはヒトカルシトニンのアミロイド線維形成において核形成を阻害することが明らかになった。MDシミュレーションからもクルクミンはヒトカルシトニンと芳香族アミノ酸残基を介して相互作用していることが明らかになった。今後はモノマーのカルシトニンがクルクミンとどのような相互作用をしているのか、NMR測定により実験により相互作用の特定を行っていく計画である。 中性条件ではグルカゴンの溶解度は非常に低いが、脂質膜存在下ではグルカゴンは脂質に取り込まれて、均一な脂質膜分散系を形成した。その結果、グルカゴンの脂質膜存在下でのNMR測定が可能になった。さらに31P-NMR測定から、グルカゴンの存在下で脂質膜の形態が大きく変化することが観測された。これは、グルカゴンのオリゴマーが細胞膜に強い作用を与えることを意味しており、グルカゴンのオリゴマーが細部毒性に関与していることを示しており、非常に興味深い。今後は、グルカゴンオリゴマーの細胞膜への相互作用の変化をNMR測定と電子顕微鏡測定を同期した観測を行い、オリゴマーのNMRの二次構造解析と電子顕微鏡による形態解析を並行しておこない、オリゴマーと細胞膜との祖相互作用についてさらに詳しい解析を行っていく計画である。
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