研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
16H00758
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
内橋 貴之 金沢大学, 数物科学系, 教授 (30326300)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一分子計測(SMD) / 走査プローブ顕微鏡 / ナノバイオ |
研究実績の概要 |
本年度はKaiCとKaiAの結合・解離過程を高速AFMで可視化し、結合および解離速度に対するKaiCのリン酸化状態依存性の詳細について調べた。KaiCが持つ二つのリン酸化サイト(S431、T432)のそれぞれにリン酸化と脱リン酸化をミミックする変異を導入した変異体KaiCを4種類(DE, DA, AE, AA)調整し、それら変異体KaiC六量体とKaiAの結合・解離過程を観察し、結合速度と解離速度を求めた。その結果、結合と解離速度の両方がKaiCのリン酸化状態に応じて変化することが分かった。また、協力研究者と共同で行ったシミュレイションにより、KaiCのリン酸化状態に応じたKaiAとの親和性の変化が、概日リズムにとってどのような意味を持つのかを調べ、KaiCとKaiAの親和性の変動は、タンパク質の濃度揺らぎに対して概日リズムを安定に維持する効果があることが分かった。すなわち、概日リズムのノイズ耐性を高めていることが明らかになった。 KaiAはKaiCのC末端側テイルと相互作用すると考えられているが、KaiC六量体のうちいくつのプロトマーと相互作用しているかを調べるために、テイルを除去したKaiCモノマーを準備し、野生型KaiCと混合することでKaiC六量体のテイル本数を変化させた試料を調整した。KaiAとの相互作用を調べた結果、テイルがない場合でもKaiAはKaiCと相互作用するが結合後1秒以内に解離するが、六量体のうち2個以上のプロトマーにテイル構造があると、KaiAとの相互作用がより強固になることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KaiCのリン酸化状態に応じたKaiAおよびKaiBとの親和性の変化を明らかにし、さらに、親和性の変動が概日周期に与える影響をシミュレイションにより明らかにすることができた。また、KaiC六量体内の個々のプロトマーの状態を変化させた時のKaiAとの相互作用の変化も明らかにでき、今年度実施予定の六量体内間プロトマーの協同的効果を調べる足がかりがつかめたため。
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今後の研究の推進方策 |
KaiCリン酸化の概日リズムには、温度が変化しても周期が一定に保たれる温度補償能があるが、その分子機構については明らかになっていない。これまでの高速AFM観察で、KaiAとKaiCの解離定数がKaiCのリン酸化状態に応じて変化すること、すなわちタンパク質間の親和性が概日周期的に変化することを見出している。一方でKaiCのリン酸化はKaiAとの相互作用により促進されることから、KaiA/KaiCの複合体形成のダイナミクス自体に温度補償性が組み込まれている可能性がある。KaiA-KaiC相互作用が温度依存性を持たない、あるいは結合までの待ち時間と解離までの結合時間が温度上昇とともに短くなり、結果的に結合時間の総和が温度に依存しない等の可能性が考えられる。最近、室温から45℃までの昇温観察が可能な高速AFMシステムの開発に成功したので、このシステムを使い、温度を変えながらKaiA-KaiCの結合と解離を観察し 相互作用の温度依存性を検証する。また、同様にKaiBとKaiCの相互作用についても温度依存性を計測し、Kaiタンパク質システムの温度補償能の起源を明らかにする。 次に、KaiCのリン酸化状態同調機構について調べる。KaiCは異なるリン酸化状態にあるKaiCを混合してもリン酸化状態は平均化されず概日リズムは保たれる、すなわちKaiCには位相同調機構が備わっている。この同調機構の分子的実態はKaiC六量体間のモノマー交換によると想定されているが、これまでKaiC六量体がプロトマーに解体し、再集合する直接的な証拠はなかった。高速AFMで脱リン酸化相にある六量体がどのように解体し再集合していくのか、その過程を直接観察することで検証する。
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