生体高分子は、可逆的な分子修飾、集合・離散、プロセシングといった分子状態の変容によって、機能のOn/Offをスイッチングする仕組みを有している。したがって、分子間相互作用が、細胞機能へと変換される仕組みを理解し活用する手法の一つとして、生命作動システムの概念を人工的な分子で再構築すること、また、人工的な分子でシステムを単純化することがあげられる。本研究では、人工核酸を活用したシステムを開発し、生命システムにおける分子の相互作用、結合・解離などをヒントに人工分子の創出を行った。主な成果を以下に述べる。 ①リポソームによる人工系の構築は、細胞様モデルや細胞内小胞モデルとして広く研究されている。本研究では、細胞や小胞の膜間の相互作用を人工核酸を用いて模倣するシステムの確立を試みた。 ②細胞内での物質輸送は、クラスリンなどのタンパク質を裏打ち骨格とする小胞によって担われており、pHなどの外部環境の変化に応じて、小胞内の物質の荷下ろしが行われている。このことを 光応答性DNAを用いた物質輸送システムに応用した。具体的には、三種類の光応答性DNAによって形成するthree way junction構造(TWJ)を、TWJの末端部位(粘着末端)の間の相補的な二重鎖形成によって集積させることで、DNAからなるマイクロカプセルを構築した。粘着末端部位に光応答性分子を導入しておくことで、光刺激に応じて内包した物質を放出する仕組みを設計した。実際に、特定の波長の光刺激によって、このマイクロカプセルが崩壊し、それと同時に内包した物質を放出させることに成功した。 ③人工核酸を用いた細胞内遺伝子発現の人工制御システムの開発、光応答性DNAの二重鎖形成と解離のダイナミクスに関する共同研究を推進した。
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