細胞の分裂や運動、分化、細胞内小胞輸送など、細胞の健全な営みには細胞膜のダイナミックな形態変化が必要である。細胞膜の曲がり具合(曲率、curvature)の誘導原理ならびに細胞に及ぼす影響の理解は、細胞の営みの本質の一端に迫れるのみならず、種々の細胞現象を制御・調節する新しい方法論の開発に結びつく。従来、曲率誘導は細胞膜の内層と外層の脂質組成の非対称性により生じると考えられてきたが、近年、種々のタンパク質・ペプチドに生体膜に曲率を誘導する機能が備わっていることが明らかとなってきた。本研究では、曲率誘導ペプチドに基盤をおく細胞現象の制御・調節ツールを得ることを目的とし、細胞内輸送小胞形成に関わるタンパク質エプシンのN末端由来の曲率誘導ペプチドEpN18を用いて検討を行った。生体膜にはリン脂質のパッキングの隙間(packing defect) が存在し、膜に曲率が誘導されるとパッキングの隙間が増大すると期待される。本研究では(i)EpN18により細胞膜のパッキングの隙間が増大することを環境感受性色素di-4-ANEPPDHQにより染色した生細胞のGP値解析から確認するとともに、(ii)細胞内薬物送達能を有するペプチドの一つであるオリゴアルギニンの膜透過が、パッキングの隙間が増大することで促進されることを見出した。また、小分子化合物であるpyrenebutyrateもにも同様の膜曲率誘導能、パッキング緩和能、さらにオリゴアルギニンの膜透過促進能があることが分かり、これらの三者に密接な関連があることを示した。
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