公募研究
多くのタンパク質は多様な機能発現のために、単一のポリペプチド鎖からなる3次元構造体(サブユニット)が会合し、より複雑な高次構造体を(4次構造)を形成し、機能発現をしている。この高次構造体=サブユニット会合体は通常明瞭かつ固定された構造を維持している。しかしながら、ある種のタンパク質(熱ショックタンパク質など)は会合して巨大な会合体を形成するが、上述のような明確な4次構造が観測されない事がある。水晶体内で自身を含むタンパク質の異常会合を防いでいるシャペロンでかつ巨大な会合体であるαクリスタリンは正にその典型例である。申請者は、独自手法である重水素化ラベリング法を用いた中性子小角散乱法を用いて、αBクリスタリン(2種類あるαクリスタリンのサブユニットの1つ)のホモ会合体では構成サブユニットが固定されておらず、会合体間でサブユニットを交換していることを明らかにし、交換速度は温度に強く依存しており、10℃ではほとんど交換は起こらないが、37℃では10時間程度で全てのサブユニットが交換する。更に興味深い事にシャペロン活性が上がる48℃では、15分以内で全てのサブユニットが交換する一方で、会合体数が増加していることも明らかにした。加えて、無変性質量分析法による分子量測定も行った結果、20量体以下の複合体はほとんど存在しないが、唯一単量体(とごくわずかな2量体、3量体)が存在することが確認できた、これが交換現象を担っていると考えられる。今年度は、生体中のクリスタリンと同様のヘテロ(αA+αB)クリスタリン会合体の交換現象を明らかにし、更に、時計たんぱく質の複合体構造形成機構解明にも行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究ではαB+αAクリスタリンのヘテロ系での測定およびその機構解明が主目的である。そのためにはそれぞれのタンパク質の重水素化を含む発現・精製系の構築が重要である。αBクリスタリンはこれまで経験があったが、今年度はαAクリスタリンの精製系の確立も成功した。加えて、ANSTO、ILLの中性子小角散乱装置を用いて散乱測定を行い、αAクリスタリンの交換がヘテロ系での律速になっていることも明らかにした。また、時計タンパク質の概日振動の中間体であるKaiC+KaiBの構造も重水素化タンパク質技術を用いて明らかにするな、発展的な成果も得られている。
αB+αAクリスタリンのヘテロ系の測定に成功し、αAクリスタリンの交換がヘテロ系での律速になっていることを明らかにしたが、両者の存在比依存性は解明できていない。本年度はこの点をより詳細に検討する。その意味は、生体系では幼年時にはαB+αAクリスタリン=1:1であるが加齢とともにαB+αAクリスタリン=2:1と変化する。この点が白内障発症と関連しているとも考えられるので、この点を検討する。更に、これまでiCM-SANS、無変性質量分析法を統合的に用いて研究を進めてきたが、今後はこれに新たに導入した超遠心分析装置を加えて、分子量分布、対応構造なども検討し、複合滝な解析法の確立をも目指す。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 35567
10.1038/srep35567
巻: 6 ページ: 29208
10.1038/srep29208