研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
16H00767
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松浦 友亮 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (50362653)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光制御 / 人工細胞 / 無細胞翻訳系 / 膜タンパク質 / アゾベンゼン |
研究実績の概要 |
我々は、細胞サイズのリポソーム内で再構成型無細胞翻訳系PURE systemを用いて膜タンパク質を合成する技術を確立してきた。Liposome displayと名付けたこの技術は、膜タンパク質の進化分子工学だけでなく、細胞環境に近い反応場での膜タンパク質の機能解析を可能とする。 生体膜上での高次の生命現象の多くは、発現のダイナミクスが制御された複数種の膜タンパク質が協同的に働くことで進行する。現行のLiposome display法は、複数種の膜タンパク質を発現させることは可能だが、各タンパク質の発現のタイミングを制御できない。そこで本研究では、光によって異性化するアゾベンゼンを導入したオリゴDNAを用いる事でリポソーム内膜タンパク質合成反応のダイナミクスを制御する技術の確立とその応用を目指す。 現在までに、緑色蛍光タンパク質(GFP)をモデルタンパク質として用い、その発現の光制御技術の確立を行ってきた。まず、オリゴDNA配列をGFP遺伝子の開始コドン付近に会合し、リボソームによる翻訳反応を阻害するようデザインした。アゾベンゼンとしては、それぞれ340 nmと400 nmの光照射によりcis構造に異性化する2,6-dimethylazobenzene-4’-carboxylic acid (DM-Azo)と2,6-dimethyl-4-(methylthio)azobenzene-4′-carobxylic acid (S-DM-Azo)を用いた。これらは共に450 nmの光によりtrans構造になる。異なる数、場所にアゾベンゼンを導入したオリゴDNAを多数合成し、これらを用いて光照射によりGFP合成反応を停止させる条件を検討した。その結果、DM-Azoを用いたオリゴDNAのほうがS-DM-Azoよりも合成反応を効率的に停止させる事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アゾベンゼンとしてS-DM-AzoとDM-Azoの2種類を用いてきた。これはそれぞれが異なる波長の光により異性化するためである。しかし、これまでの研究でDM-Azoを用いたオリゴDNAのほうがS-DM-Azoよりも合成反応を効率的に停止させる事が明らかになった。逆に言うと、S-DM-Azoでは、GFP合成反応を停止させる事は困難であった。その詳細なメカニズムは現時点では分かっていない。分光学的、生化学的な実験によりS-DM-Azoを用いた場合の問題点を現在、調べているところである。 加えてDM-Azoを用いた場合において340 nmの光照射により反応を停止させる事は効率よく行えるが、450 nmの光照射により再度開始させる効率が低い事も明らかになってきた。この点についても分光学的、生化学的な実験により問題点を現在、調べているところである。
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今後の研究の推進方策 |
上記で述べたDM-Azo、S-DM-Azoの問題点を分光学的、生化学的な実験により明らかにし、これを解決することを目指す。DM-Azo、S-DM-Azoに加えて、光架橋性オリゴDNA(CNVオリゴDNA)を用いてリポソーム内膜タンパク質合成反応のダイナミクスを制御する技術の確立を目指す。CNVオリゴDNAは366 nmの光照射により相補鎖のmRNAもしくはDNAと共有結合を形成する。この原理を用いる事でmRNAにCNVオリゴDNAを結合させる事でリボソームによる翻訳反応を阻害する事を目指す。
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