脂質ラフトはコレステロールやスフィンゴ脂質に富んだ秩序性の高い領域で、近年その生理的重要性が認識されてきた。一方で、生成と崩壊を繰り返しつつ自己組織化しているため、特に生細胞膜におけるラフト形成の分子基盤は未解明のままである。我々は本新学術の第一期において時間分解能の高い蛍光寿命測定や共焦点蛍光顕微鏡を導入し、ラフト観察に成果を挙げてきた。本研究では、第一期において有用性が示された蛍光スフィンゴミエリン(SM)の設計脂質に基づいて、新たに各種脂質の蛍光標識体を開発し、蛍光観察による脂質膜動的秩序改正の高度化を図る。さらに、単純な人工膜ばかりでなく、脂質の外葉と内葉の組成の異なる非対称膜、さらには生細胞膜へと研究対象を拡大していくことを目指した。 本研究では、すでにSM、およびSMのトランス二重結合を還元したジヒドロスフィンゴミエリンの蛍光標識体の調製に成功した。またアシル鎖長の異なるSM蛍光標識体も合成し、ラフトにおける挙動の解析を行ったところ、予想に反して長鎖のSMのラフト集積性が低くなる結果が得られた(論文準備中)。さらにセラミドに蛍光基を導入した蛍光セラミドの合成にも成功し、論文発表およびプレスリリースを行った(Langmuir 2019)。これらの標識体はいずれももとの脂質の性質をよく再現していた。さらにラフトの可視化を目指し、蛍光SM間のFRETによりラフトをより鮮明に可視化する技術の開発にも成功した(Chem Phys Lipids 2018)。これらの蛍光脂質はすでに生体膜にも導入し、ラフトの可視化および脂質の動的秩序の解明に成功した(Sci Rep.2017)。さらに非対称膜の作成にも成功し、外葉に形成された脂質ラフトが内葉に与える影響について蛍光脂質を用いて解析した。このように当初予定していた以上の研究成果を達成することができた。
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