公募研究
本研究の目的は、分子動力学(MD)シミュレーションや量子化学計算、我々が開発してきた手法などを活用し、紅色光合成細菌の光捕集複合体における自己組織化過程と機能発現の分子論的機構を明らかにすることである。本年度は、光捕集複合体のサブユニットB820の物性や自己組織化過程の解析を行った。サブユニットB820は2種類のポリペプチドが1つずつと色素2分子から構成されるが、その詳細な構造は不明である。光捕集複合体の結晶構造から過去の実験結果に基づいてサブユニットB820の初期構造を作成し、長時間のMDシミュレーションによりサブユニットB820の安定構造を作成した。その結果、結晶構造と比較して、サブユニットB820単独ではポリペプチド間により多くの水素結合が生成されることを明らかにした。また、N末端での水素結合がサブユニットB820の安定化に大きく貢献していることも分かった。また、アンブレラサンプリング法を用いて結合自由エネルギーの計算を試みたが、ポリペプチド間の水素結合が強すぎるために、ポリペプチドのヘリックス構造が崩壊し、適切に結合自由エネルギーを計算できないことが分かった。そこで、ポリペプチド間の静電相互作用を減衰させた仮想的な状態を導入して結合自由エネルギーを計算する手法を開発した。この手法を周辺光捕集複合体LH2由来のサブユニットB820に適用したところ、ポリペプチドの構造を壊すことなく結合自由エネルギーを計算できた。現在、コア光捕集複合体LH1やLH2とLH1の混成体のサブユニットB820の結合自由エネルギーの計算も進めている。さらに、サブユニットB820の形成過程の解析も行った。ポリペプチドが解離した状態から1マイクロ秒以上の長時間のMDシミュレーションを行い、N末端で水素結合の形成を確認した。現在、引き続き解析を行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、当初の予定通りにサブユニットB820の物性や自己組織化過程の解析を行った。励起エネルギーの調整機構の解析には進めなかったが、おおむね順調に進展している。
次年度は、本年度に開発した結合自由エネルギー計算手法を用いて、コア光捕集複合体LH1やLH2とLH1の混成体のサブユニットB820の結合自由エネルギーの計算を行い、どのアミノ酸残基がサブユニットB820の安定化に重要か明らかにする。また、サブユニットB820の形成過程の解析も引き続き行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
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